【d!】君の顔も見たくない【軍パロ】

「生きて」 ページ45

名残惜しむ間も無く彼が走り去ろうとしていた。

「まっ、て…！行かないで…っ！…しゃおろん！！」

私の叫びにも彼は振り返らない。
手を伸ばしたって、届くわけがない。

効果があるかは分からないが護身用として持っていた解毒剤を痺れた体に打ち込んだ。

「いま、動かなかったら…わたし、は…一生、後悔する…！！」

何度、彼の死を見てきたか。

何度、後悔をしたか。

もう、迷いたくない。
悲劇のヒロインなんて、ウンザリだ。

「動けっ……くそっ……！」

立ち上がって、また足が動かず倒れる。地面に爪を立てて、上半身だけ起き上がらせた。

「ごめん、シャオロン…っ！」

そして震える片手でロボロの側に転がっていた拳銃を手に取る。狙いを定めて引き金を引いた。反動と共に銃声が重く鳴り響く。

一発の銃弾は、彼の下腿に命中した。
やっとこちらをみたシャオロン。

時間はない。
私は、立ち上がる。覚束無い足取りではあったが離された距離を確実に狭めていく。

「なんでや…」

急所に当たったのだろう。シャオロンが血を流しながら膝を折っていた。私が彼の傍らにある爆弾を拾おうとするとその手を強く掴まれる。私は彼の顔を見ずにその手を振り払う。
今、彼の顔を見てしまえば泣いてしまいそうだったからだ。

「シャオロンは、わたしにいつだって生きてっていうもんね…っ」
「そりゃ、そうやろ…毒の効いた体で無茶すんな」
「わたしね、何度もあなたが…死ぬところを見てきたの…。だから、今回こそ…救ってみせるから…」
「それは…こっちの…うっ！？」
「シャオロン…さようなら。大好きだったよ」

最期に大好きな人に向けて発砲してさらには毒針を打ち込むなんて最低だ。

「まて…行かんといて…なあ、Aっ！！」

視界が揺れているのだろう。彼の手は空中を彷徨ったまま、私を捕らえることは出来なかった。

「俺だって、お前を救えてないねん…っ！」

彼の悲痛な叫びも無視して私はゆっくりと立ち上がる。タイムリミットはあと少し。出来るだけ被害を出さないように、訓練場の奥へと…私は足を進めた。

いつか彼と来た湿原エリアまで来た私は爆弾と共にその場に留まる。
最期に思い出すのは彼のことばかりで笑ってしまう。

「シャオロン…生きてね」

これもまた彼にとっては呪いの言葉なのだろう。でも私の口から出た言葉はそれだ。自然と流れる涙には気づかぬフリをして私は床に爆弾を置いた。それと同時に周囲に爆発音が鳴り響いた。

背中を押す→←その言葉は呪いだった

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す