君さえいれば ページ28
初めてきたこの世界での買い物に彼女は興味津々だ。
「すごい、昔の欧州にきたみたい」
「おうしゅう？」
「はい、私の世界にある地域のことです。映画みたいで憧れてたんです。あ、あれ何ですか？可愛い！」
驚くほどに彼女は活発で、ロボロは自ら荷物持ちに志願したもののこの量には驚く。予算内で安くいいものを買う、と彼女は狩人の目をしていて思わず笑ってしまった。
そんな彼女の買い物も一通り終わり、少し休憩しようと街中の噴水の前でアイスを食べる。
「ロボロさんは何味にしたんですか？」
「普通にチョコやで」
「美味しそうですね。あ、良かったら私の苺味も食べます？」
Aがスプーンに桃色のアイスをのせてこちらに差し出す。突然の間接キスにロボロは慌てた。
「は？いや、これ間接キスやん…」
「いやでした？」
今日のAは何だかズルい。ロボロは溜息をついて口を開ける。己の顔に熱が篭っているのは分かるがもうこうなればやるしかない。苺味のアイスはロボロの口の中で簡単に溶けてしまって味わうひまなんてなかった。Aがニコニコとこちらを見てくるのでとりあえず「うまかったで」と簡単な感想だけ伝えた。
「Aも、く、食うか…？」
恐る恐る、スプーンにアイスを掬う。彼女は満面の笑みで「はい」と頷いた。小ぶりな彼女の唇が開いてロボロはそんな唇ばかり見つめる。
「美味しいですね！」
顔色一つ変えない彼女はなんだかロボロよりも大人に見えて、心臓が痛くなる。
穏やかな時間が二人の間に流れていたそんな時だった。
「だれか、誰かッ！ わたしの子供を見かけませんでしたか！？」
街中で一人の婦人が大声を出しながら走り回っている。Aとロボロはすぐさまその声の主に視線を向ける。
先に動いたのはAであった。
裸足で駆け回るその女性の方に近づいて声をかける。
「どうされたんですか？」
女性の顔は疲れ切っていて、髪の毛もボサボサだ。裸足で走っていたせいで足先は切れて血が出ている。どこからどう見ても正気ではない。ロボロはAの跡を追うように女性に近づくがそのようなことしか思えなかった。
女性は声をかけたAに縋るように肩を掴む。
「わ、わたしの、可愛い子がいなくなったんです…っ。最近この辺では、子供の誘拐事件が多くて…わたし、あの子がいなくなったらもう…お願いします…たすけて、」
Aはお世辞にも綺麗とは言えない彼女の手を取ってもちろんです、と力強く頷いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 759人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
🍞 - ご、語彙力が爆発してる、、すごすぎんか？ (9月24日 22時) (
レス) @page42 id: 42c1ea8f94 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - 琥珀さん» 琥珀さんいつもありがとうございます…！番外編まで読んでくださって感謝しかありません…！また他作品は更新していくつもりですので今後ともよろしくお願いします！ (2020年3月14日 20時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
琥珀(プロフ) - 完結おめでとうございます！本編のほうも、番外編のほうも、鳩山さんの素晴らしい文章に引き込まれ、読んでいて幸せな気分になれました。これからも鳩山さんの作品を読み続けさせてください…！ (2020年3月14日 13時) (レス) id: 742aa07519 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - メオさん» コメントありがとうございます！告白までしていただいて嬉しいです！これからものんびり更新だと思いますがよろしくお願いします…！ (2019年11月12日 19時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
メオ - うん、好きだ(確信)ありがとう(嬉し泣き)頑張ってくださいね！！ (2019年11月12日 14時) (レス) id: 8aa2d098f2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
