＊＊＊ ページ38
少年に案内されたのは小川であった。川辺には木々や花も咲いておりそれを見たAは目を輝かせる。
「綺麗…！私こんなところには初めてきたわ！」
「川を見たことないってあんた一体どんな人生送ってきたんや…」
「失礼ね。屋敷から出してもらえなかったのよ……って！何で急に脱いでるの！？破廉恥だわ！」
Aは下着一枚になった少年を見て悲鳴を上げて顔を手で覆う。自分の兄の裸ですら見たことないAには刺激が強すぎた。少年は一瞬ポカンと呆けた表情を浮かべたがすぐにカラカラと笑い出す。
彼の姿にも慣れたAはドレスが汚れるのも気にせず彼が自分の洋服を洗濯するのを眺めていた。
「ねえ、何故川で洗濯するの？物語みたいね」
「水がたくさんある場所はここしかないからな」
「ねえ、あなたって男のくせに細いのね？」
「毎日満足に食えてないからな」
「髪の毛を伸ばしてるのには理由があるの？」
「伸ばしとったら女と間違えて男が寄ってくるんよ。」
「男が寄ってくるのが何故嬉しいの？男の人が好きなの？」
「ちゃうわ。カモにすんねん」
「鳥の？」
「だー！！これだから貴族は！！うっさいねん！黙って作業見とれ！」
Aの質問攻撃に耐えきれなくなった少年はAを叱咤する。しかしAは彼に怯えることなくただ楽しそうに眺めていた。
「ねえ、一つ聞いてもいいかしら？」
「ダメや」
「あなた、名前はなんて言うの？」
少年は口籠る。
「知らない人には名前を教えてはいけないって習ったの？」
「ちゃうけど…何で俺の名前が知りたいん？」
「恩人に名前を聞くのは普通じゃないの？」
「はぁ…ほんま変わった奴やな。ゾムや。ゾム。」
「ゾムね！私はA、よろしくね。」
ニコニコと笑うAを見てゾムは呆れ返った。貧困街の住民であればゾムという名前を聞けばいい顔せずに逃げ出すだろう。それぐらいゾムは悪名高い少年であった。生きる為ならば、窃盗だろうが殺しだろうがなんでもした。今日Aを殺そうとしていた男を角材で殴ったのだって、自身の盗んだ商品を盗まれたからに過ぎない。ゾムはAを助けたわけではなかったのだ。
しかし、血で濡れたゾムを見て怖がりもせずニコニコと笑うAを見てどうも悪い気はしない。それどころか胸がポカポカと暖かくなった。……貴族って何か変な能力でも持っとるんか？とゾムは生まれて初めての感情に疑問を持った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 886人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鳩山(プロフ) - ろわ。さん» コメントありがとうございます…！拙い文章でしたが楽しんでもらえたなら幸いです。嬉しいお言葉本当にありがとうございます…！ (2019年11月27日 21時) (
レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
ろわ。(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後の結婚式のシーンでは私までut先生みたいになりました...。とても素敵な作品をありがとうございました。 (2019年11月22日 2時) (レス) id: a9da82584b (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ロアさん» ロアさん！コメントありがとうございます！労いのお言葉まで…！最後まで読んでくださって本当にありがとうございました！ (2019年11月21日 13時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
ロア(プロフ) - 完結おめでとうございます！！( ；∀；)お疲れさまでした (2019年11月21日 8時) (レス) id: 148e7f1d83 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ウルさん» コメントありがとうございます！とても嬉しいお言葉、そして完結まで読んでいただき本当にありがとうございました！ (2019年11月21日 6時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
