似合わぬワルツも覚めぬ夢なら ページ34
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「―――標的、発見した」
待ち望んでいた熱は無く。代わりに、耳元で囁かれた低い声にはっと目を見開いた。
「……え、あ、標的?」
「お前の後ろ。ええ位置につけたわ。作戦は覚えとるな?」
「……銃弾降らして客を撹乱、逃げた標的をゾムが追う」
「標的は必ず、危機を感じて舞踏会の参加者に売りつける筈だった密輸品の隠し場所へ向かう。俺たちの仕事は、」
「ただ、暴れるだけ」
「百点」
トントンがこつんと私の額を小突き喉を鳴らして笑う。そうして遠ざかった彼の顔を私は直視出来なかった。
―――ただの耳打ちを、キスと勘違いするなんて。ああ、とんだ赤っ恥だ。私はどっぷりと甘い夢に浸り酔いきっていたらしい。
情けない。仕事を忘れて浮つくなんて。
それでも誇り高き軍人か、と拳を握り叱咤する。
同時に、拍手喝采が巻き起こった。いつの間にやらダンスは終わっていたようで、周囲に合わせ私たちも一礼を交わし合う。
もう、終わりか。なんて少し残念に思っていた。あの鉄壁のガードを持ったトントンとこれほどまで距離を詰められる機会はもうないだろう。
自然と互いに重なっていた手がするりと解けてゆく。それが酷く寂しく、ああ、もう少し。なんて我儘を言いかけた。
「……なあ。期待してええんかな」
「なにが、?」
解けかけた手が再びきゅっと握られる。
「待ってた、やろ」
どういう意味、と聞く前に。そっと腕を引かれ、驚く隙もなく額に柔らかな感触が降った。
それがキスだと気づいたのは、あの瞳のように赤く染められた彼の気恥しそうに笑う顔が見えてから。
「……また後で。仕事終わったら迎えに行くから、その。……ドレス、脱がんといてや」
「……わ、かった」
まだ私は、甘い夢を見ているのかもしれない。
しかし。背を向け、そうして二曲目が始まろうとしていた燦々たるダンスホールで一際鈍い光を見せた拳銃を彼が天井に突きつけた時。夢の続きはみれるようだから、と響き渡った銃声と共に浮ついた心を捨て去った。
「トントン、怪我しないでね」
「それはこっちの台詞や」
穏やかなクラシックに包まれていたはずの、少々居心地悪く感じていた空間が一転。悲鳴の嵐が巻き起こり、踏み場を見失っていた心がふっと落ち着きを取り戻す。
焦がれ続けた彼と背を合わせ。やはり私たちにはこれがお似合いだが、たまの穏やかな一時も悪くはなかったな、なんて。
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作者名:軍パロを愛する連合軍 x他11人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2020年6月1日 12時