似合わぬワルツも覚めぬ夢なら tn (ぴぷ) ページ32
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｢やっぱり、こんなの柄じゃないね」
「ほんまに」
演奏家たちの奏でる心地よいクラシックを背景に仮面で目元を覆った紳士淑女が身を揺らし、ステップを踏み、華麗に回る。
きっと聴く人が聴けば素晴らしい演奏なのだろうと思う。しかし残念ながら、そんな高貴な人間のお遊びに紛れ込んだ"鼠"―――私とトントンはこうも煌びやかな世界とは無縁の生活を送る軍人であるので、全くもってその価値を見いだせないまま単調なステップを踏み続けていた。
「早く仕事終わらせて帰りたい……」
「せやなぁ。……でも、上達したやん。今日は全然足踏まれへん」
「そっちこそ。最初は手繋ぐのも躊躇してたのに、立派にリードしてくれてるじゃん」
「そりゃ毎日あれだけ練習させられとったらな」
「確かに。オスマンの指導、地獄みたいだったもんね」
背中に添えられたトントンの逞しい腕がそっと私の身体を引いていく。最初は笑ってしまうくらいバラバラだったというのに、今では呼吸すらぴったりと重なるほどの上達振りだ。考えずとも身を任せていればトントンが私を華やかに魅せてくれるので、私はただ流されているだけだが。
「にしても、トントンって燕尾服似合わないなぁ……」
「随分とハッキリ言ってくれるやんけ。そのちっこい足踏んだろか」
「いや、ふふ、ごめん」
私たちが身に纏っているのは見慣れた軍服ではなく、真っ赤なイブニングドレスと燕尾服。
正直な話、似合わないというのは嘘だった。寧ろその逆、様になりすぎている。そんなトントンの普段とは違った姿にほんの少し照れが混じり、余計なことを口にしてしまった。
少し視線を上げれば、仮面の隙間から除く赤瞳が文句ありげに私を見下ろしている。
｢……お前のドレス、見慣れへんから変な感じするわ｣
｢あ、馬鹿にしてる？｣
｢馬子にも衣装――って、言いたいとこやけど｣
途端、踵を下げたトントンが私をいっそう引き寄せた。
｢お前はやっぱり、赤がよう似合うな｣
見上げた先の赤が細められる。
同時に、彼のそんな台詞によって私の心臓が弾け飛びかけた。
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作者名：軍パロを愛する連合軍
x他11人 | 作者ホームページ：なし
作成日時：2020年6月1日 12時
