秒速5センチメートルの約束 ページ28
本来ならこういったことはゾムの仕事だが、生憎ゾムは手負いで俺が行くことになった。
全戦力をつぎ込んだせいか、城の中には僅かな兵しかおらず、簡単に侵入することができた。
こんな時身を隠すのはここしかないだろうと当たりをつけ地下室に向かえば、案の定そこにあったのは無様に縮こまる王の姿。
情をかけてやる義理もないと、目の前で愚かに命乞いする王に刀を向けようとしたその時だった。
がちゃり、と扉の開く音と共に現れたのは、右手に銃を持ったAだった。
「おい!A!!私を助けろ!!その手に持っている銃でこの男を殺せ!!」
王は大声で助けを求める。
その言葉通り、彼女は一歩また一歩とこちらに歩みを進め、恐れなど感じさせない様子で俺と王の間に立つ。
そして彼女は引き金を引いた。
部屋中に響く発砲音と血の匂い。
彼女が撃ったのは俺ではなかった。
彼女は自らの手で実の父親を殺したのだ。
「どう、して…?」
動揺を隠しきれず、震えた声で彼女に問いかける。
『いつかこうなるということは分かっていました。それでも、私が姫なんて身分じゃなければ、ひとらんさんが敵国の軍人じゃなければ、なんてことを考えてしまうんです』
彼女は俺の問いに答えることなく、馬鹿ですよね、なんて自嘲めいた笑いを零す。
「俺が頼めば、Aは俺の国で暮らせるかもしれない。だから…」
『いけません。私は実の父親を殺したんです。そんな最低な女に幸せな未来なんてあっちゃダメなんです』
彼女は俺の言葉を遮るようにして首を横に振る。
『でも、もしもまた来世で出会うことができたなら、私と一緒に桜を見てくださいね』
『愛していました』
その言葉を皮切りに彼女は自分の顳�莵に銃口を当てる。
俺は彼女へ必死に手を伸ばす。
もう少し、あとほんの数センチのところで無慈悲にも鳴り響いた発砲音と、彼女の掌から銃が落ちる音。
地面に打ち付けられそうになる一歩手前で彼女の手を引き、動かなくなってしまった身体をそっと抱き締める。
「言い逃げなんてずるいだろ…俺だって…Aのこと愛してたよ」
堪えきれず涙が溢れた。
「俺が植えた桜、今年は咲きそうなんだ。Aと一緒に見たくて、俺頑張ったんだよ?」
袖口で涙を拭い震える手で彼女の手を取り、あの日と同じように指切りを交わす。
「約束守れなくてごめん。来世こそは2人で一緒に桜を見ような」
これが俺とAの最後と約束だった。
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作者名:軍パロを愛する連合軍 x他11人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2020年6月1日 12時