【d!】断頭台で首を斬られたのでもう一度人生やり直します

与えられた選択権 ページ30

ゾムは驚いた。彼女が首を縦に振った瞬間、あれだけ騒がしかった雨音が止まったから。オスマンの後ろに位置する窓を見れば空から陽が差し込んでいたのだ。

「な、なぁ…やっぱり、あんたは、神か？」

　正気な人間が言っているとは思えない台詞だと自分でも思う。それでもゾムは問う必要があった。

この国の象徴とされる真昼の光を思わせるブロンドと穏やかに浮かぶブルーサファイアを持つ少女は、笑顔を絶やすことない。しかしゾムのその言葉に対してだけ不服そうに頰を膨らませる。

「先ほどから言ってますわね。誰が神ですって？」
「…そりゃあんたや」
「…それは心外ですことよ」
「………」
「わたくしもまたあなたと同じ人間でありますわ。天使でも神でも悪魔でもなんでもない。ちっぽけな存在ですの」

　客間からサファイアは飛び出す。昼間の光を浴びて、支柱の後ろに飾られた何種類もの色の混じったステンドグラスが神秘的に輝いていたのだ。その光は笑みを浮かべた彼女に掛かるように差し込んでいた。

　ステンドグラスに描かれた女神像もまた、今のAを生き写したかのようなブロンドと、ブルーサファイアを持っていた。生まれた頃から教会に通っていたゾムには、この国の象徴とされ、神と崇められる彼女へ酔いしれると共に、深い憎しみを持っていた。

　だが、それも今日で終わりだ。
彼女は、傲慢な神様なんてものじゃなかった。
国を治めるものとして自分たちを救おうと足掻く、一人の人間だったのだ。

　口約束かもしれない、なんてゾムはもう思わない。神々しいその光景を見れば彼女を疑うなんてこと出来やしなかったから。

「あ、そうですわ。わたくし、無駄な投資が一番嫌いなの」
「は、」

　慈悲深いと思っていた彼女が急に掌を返すから、自分を含めた三人が我を忘れて低い声を出す。

「だから一つだけお願いがありますの。ゾム、あなた…わたくしの護衛になってくださらない？」
「は、」

　次に出てきたのは困惑だ。目の前の彼女が何を考えているのかがまったく理解出来なかった。

「わたくし、無駄な投資は大嫌いですけど、価値ある投資は大好きですの。この街に暮らす皆様の未来…そしてあなたへの期待。それがこの街を救う対価ですわ」

　そんなこと言われてしまえばゾムは逆らえない。生まれた時から選ぶ権利を奪われてきたゾムに、広い選択権を与えてくれたのは世界でたった一人。憎しみを抱えて生きてきた自分を変えてくれたのも一人だけなのだから。

未来を見据えるトルマリン→←無知は罪である

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