【d!】断頭台で首を斬られたのでもう一度人生やり直します

無知は罪である ページ29

神父は黙ったまま教会内の奥にある質素な客間に二人を案内した。何か出すものを…と呟いたトルマリンにAは手で制する。

「無理をしてお話を伺っているのはこちらなのですから、もてなしは不要ですわ。」
「…そうですね。まずはこのような場所に足を運んでくださりありがとうございます。私は、このしがない教会の神父──オスマンと申します。そしてこちらは教会の手伝いをしてくれているゾムです。数々の無礼をお許しください」
「まぁ、確かに首を掴んだんは悪かったな。」

　ゾムと呼ばれたペリドットがエーミールを見やる。彼は彼で微笑みながら気にしておりません、といった。沸点の低いAとは違いエーミールは相当おおらかなのである。

「聞きたい話は山々なのですが、時間が惜しい。さっそく本題へ入らせていただきます。」

　客間の小さな窓を開けるオスマン。雨音が一段と大きくなって、Aの耳に届く。

「数ヶ月前からでしょうか……この街で、流行り病が出始めました。最初は吐気を訴え、下痢高熱が続き、早ければ数日で命を落とす謎の病。普通であればその地域を統括する貴族が調査と報告を行い、国が動くのでしょうが…ここは残念ながら国から見放された貧困街。死者が増えるばかりで、何も対策はありません。」

　人生二回目で初めて触れる、熱烈な階級社会。Aは少しだけ反省する。

───わたくしが、家に帰るたび王宮はお祭り騒ぎ。パレードだってやってましたわ。その影に隠れて、これほどの人が苦しんでいたなんて……知らなかった…

　無知は罪。いつかAが断頭台にかけられた時に飛んできた言葉だ。トルマリンは話を続ける。

「人はみな、平等であります。私達も神に誓った身でありますので、彼らを助けようと独自に動き始めました。しかし分かったことは貧困街全体で流行っていることぐらいで……。…どうか、彼らに慈悲を」

　窓の外、空に向けてトルマリンは胸にかけられた十字を唇につけて祈る。

「なぁ、神様。頼むわ。みんなを救ってやって…？確かに、盗みも、した…。世間でいう悪いこともな、生きるためにやってん。でも、みんな…いい奴やねん…。ただ、生きたい、生きて笑ってたいんや、それだけやから…」

　ペリドットの声にトルマリンも振り返る。Aはちらりとエーミールに目を向ければ彼もまた同じような瞳を自分に向けていた。
　初めて国民と向き合ったAは静かに首を振った。

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