雨音の響き渡る教会 ページ28
ペリドットは赤く腫らした瞳を隠すことなく立ち上がった。ついて来いと言わんばかりにAとエーミールを先導する。
雨の中、濡れることも厭わずに歩き続けていれば平地だった建物の中、唯一、飛び抜けているものが見えてきた。その建物の入り口でAは足を止める。天気に左右されることなく、真っ白な十字が聳え立つそこは、教会であった。
腕にかかった水を払いながら三人は教会へと足を踏み入れる。神への禊の場所であるそこはバタバタと慌ただしい足音で賑わっていた。
「ゾム…!帰ってきたんならはよ手伝ってや」
教会の中から聞こえてきた声にペリドットが「すまん」と一言返す。
「エミさん達もはよ入りや。扉が開いとると冷えるやろ」
彼の言葉に反応したのは、教会の中から声をかけてきたキャソックを見に纏った男。細められた瞳を向けてびしょ濡れとなった二人の訪問者を見つめていた。
「……これは、これは…まさか姫殿下がこんな教会に足を運んでくださるとは」
神父は軽く頭を下げて、皮肉めいた言葉を投げかける。
「お忙しいところに申し訳ないですわ。神父様、少しお時間いただいてもよろしくて?」
歓迎されていないことは彼の目を見れば分かる。だがAもまた、教会の現状を見れば引くことは出来なかった。
外とは比べものにもならない異臭。教会内を走り回るのは、顔色の悪いシスター達だ。そのシスター達が世話をする者はみな、病人であった。
ある者は高熱に魘され、ある者は吐気を催し、ある者は今にも息を引き取りそうなほど。
「…失礼ながら言わせていただきます。私はこの教会で病人を預かっている身。一秒一刻を争っているのです。聡明な姫殿下にはお分かりかもしれませんが…今はタイミングが…」
帰れ、と言われて素直に引き下がれるようなAではない。
「慈悲深い神父様。わたくしは、この現状を把握したいだけなのですわ。知ることが出来ればきっと、手助けになるはずですから」
「……マンちゃん…、この人は神様なんやろ…?」
おずおずと声をあげるのはペリドットだ。Aを指差して神父に問う。神父が細くなっていた目をゆっくりと開くと、何事にも動じない落ち着きと、偏見に捕われない実直さをもっているグリーントルマリンが顔を出した。
「あなたは、本当にこの街のことを考えて?」
「───えぇ。だからこそ、この街へ来ましたの」
トルマリンは、静かに瞬いた。
2079人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
枕の怨念ぅ - 凄く親近感の湧く小説でした!面白いです! (11月18日 16時) (レス) @page5 id: 7f1a8024d0 (このIDを非表示/違反報告)
くれぴと - 夢主様考えることが言い方悪いけど欲望に忠実すぎて逆に幼子みたいで少し可愛らしいと感じる自分がいる...これうちだけかな? (2023年5月7日 20時) (レス) id: e2b452ca9a (このIDを非表示/違反報告)
春風駘蕩(プロフ) - コーネコネコーネは笑う⋯めっちゃニヤついてしまった⋯ (2022年9月17日 23時) (レス) @page14 id: 34351208ff (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - knさん…名前めっちゃコネるやん…不覚にもねるねるねーるねを思い出してしまった…。すみません…。 (2020年12月11日 5時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - こすずめさん» コメントありがとうございます…!一応チラッとだけ概要に書いているのですが、バチコリと読んでおります!元ネタは某なろう系のものです!お褒めの言葉並びに応援のお言葉をありがとうございました…!本当に励みになっております! (2020年9月14日 2時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ