人間は万能ではないから ページ27
「あんたは、この街を救いにきたんか…?」
空は灰色に雲に覆われて、今にも雨が降り出しそうであった。光すらまともに入らない枯れ果てた街の中心で、一人の男はそんな問いをAへと向けた。
「…救い?」
彼のその言葉はAの記憶を思い出させるには十分な効力を持っていた。
.
.
Aは前世で二度死にかけたことがある。一度目はご存知の通り、処刑台にかけられて首を斬られたこと。(死にかけではなく文字通り死んだが)
そして、もう一つはとある男に首を締められたことだ。
厳重な城の警備を乗り越えて、その男はAの前へとやって来た。
瞳の奥におぞましい憎悪を飼いながらペリドットを煌めかせていたのが印象的だった。警備からの声を無視して彼は、今にも消えそうな声で「あんたは、街を見捨てるんか?」そう聞いて来たのだ。
「街……ですって?」
本来なら返事すらしないAであるが、その男の気迫が逃すことを許さなかった。
「あぁ…せや。王族であるあんたは、街を救う必要があるやろ。なのに、…っ、見捨てるんか!!」
男の怒りで空気が震える。Aは細い肩をびくりと揺らして彼を見やることしか出来ない。
「神様は、あんたなんやろ」
え、とAは声を漏らす。戸惑うよりも先にペリドットとの距離は縮まっていた。
「無能な神様はおれが、殺す」
そう言って彼は思いっきりAの首へ力を込める。
その後警備兵により彼は止められ、その場で命を落とした。
「 」
命が散るその瞬間、彼の言葉はAに呪いのようにこびりついてしまう。その言葉を忘れられずにしばらく悪夢に魘されたのであった。
.
.
「あ、あなたは…」
ずきり、と頭が痛む。痛んで痛んで、立っているのがやっとだったAをそっと支えるのはエーミールだ。
「…顔色が優れませんが、大丈夫ですか」
柔らかい従者の声に、Aは一人ではないことを知る。こくりと頷き、痛み続ける頭を知らぬフリして、ペリドットに問いかけた。
あの時、自分がいえなかったことを、
「えぇ。わたくしが救います。だからあなたも教えてください。この街で…何が起こっているのかを」
人間なんて万能ではない。この世の全てを知る人間なんて存在しないのだ。だからこそAは目の前のペリドットに尋ねた。
ペリドットは瞳を揺らして、視線を落として、そして静かに地面を濡らした。
空からは雨が降って来た。
2079人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
枕の怨念ぅ - 凄く親近感の湧く小説でした!面白いです! (11月18日 16時) (レス) @page5 id: 7f1a8024d0 (このIDを非表示/違反報告)
くれぴと - 夢主様考えることが言い方悪いけど欲望に忠実すぎて逆に幼子みたいで少し可愛らしいと感じる自分がいる...これうちだけかな? (2023年5月7日 20時) (レス) id: e2b452ca9a (このIDを非表示/違反報告)
春風駘蕩(プロフ) - コーネコネコーネは笑う⋯めっちゃニヤついてしまった⋯ (2022年9月17日 23時) (レス) @page14 id: 34351208ff (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - knさん…名前めっちゃコネるやん…不覚にもねるねるねーるねを思い出してしまった…。すみません…。 (2020年12月11日 5時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - こすずめさん» コメントありがとうございます…!一応チラッとだけ概要に書いているのですが、バチコリと読んでおります!元ネタは某なろう系のものです!お褒めの言葉並びに応援のお言葉をありがとうございました…!本当に励みになっております! (2020年9月14日 2時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ