ストラスブールの聖騎士 ページ11
「当然のことですもの。礼も受け取れません」
さらりとあり得ないことを言い退けたA。階級社会のストラスブールにおいて、このような方がいたとは…と感心せざるを得ない。
「…それに、先ほども申しました通り、わたくし達は平等でありますわ。ですのでわたくしのことはAと気軽にお呼びください。かしこまった話し方は苦手なんですの」
眉毛を下げて愛らしく笑う彼女は紛れもなく綺麗だった。
「ほんまに、ええんか」
トントンの小さく呟いた声は悲しいぐらいに震えていた。生まれながらにして地位の決まるストラスブールで、貴族でありながら散々酷い扱いを受けてきた自分。両親以外に誰も助けてはくれない、理不尽なこの世界で。努力なんてしたって到底無駄であったのに、彼女はそんなものすべて吹き飛ばすぐらいに優しく笑うから…。
「ストラスブールの皇女である、あんたがそんなこと言うて…ほんまに、ええんか…?」
トントンの言葉に驚いたのか瞳を丸くするAは猫のようだ。そんな表情も一瞬で、また彼女は笑みを浮かべる。
「えぇ、もちろんですわ。王族、貴族なんてものここでは関係ないですし。ね、トントン」
「……あんたみたいな王族…初めてや…」
「ふふ。わたくしもあなたみたいな貴族は初めてでしてよ?」
「…そうなんか?」
「だって貴族なんて領地の民を生きる金品と思っているでしょう。なのにあなたは、違う。民を大切に、民の為に思うことが出来ている…。そのマフラーが何よりの証拠ですわ」
春の風に揺られて、マフラーが
「…何故、それを…」
「わたくし、ストラスブールの皇女でしてよ。民のことちゃーんと見てますもの」
くるりと踵を返して彼女は歩き出す。
紛れもなく彼女は、ストラスブールという大国の皇女として相応しい方であった。トントンは国の表面だけを見て、王族と貴族を毛嫌いしていた。しかし、Aのように素晴らしい王を見れば考えは柔軟になる。
彼女の後ろ姿に手を伸ばして、その手を下ろす。
──まだ、俺には色々と足りひん。この学園での三年間は、彼女と共に居られる最後の三年になる。なら、俺は、俺に出来ることを精一杯やるだけや。
赤を纏う青年はこの数年後、貴族でありながら皇女を護るストラスブールの聖騎士として名を馳せることとなるのであった。
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枕の怨念ぅ - 凄く親近感の湧く小説でした!面白いです! (11月18日 16時) (レス) @page5 id: 7f1a8024d0 (このIDを非表示/違反報告)
くれぴと - 夢主様考えることが言い方悪いけど欲望に忠実すぎて逆に幼子みたいで少し可愛らしいと感じる自分がいる...これうちだけかな? (2023年5月7日 20時) (レス) id: e2b452ca9a (このIDを非表示/違反報告)
春風駘蕩(プロフ) - コーネコネコーネは笑う⋯めっちゃニヤついてしまった⋯ (2022年9月17日 23時) (レス) @page14 id: 34351208ff (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - knさん…名前めっちゃコネるやん…不覚にもねるねるねーるねを思い出してしまった…。すみません…。 (2020年12月11日 5時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - こすずめさん» コメントありがとうございます…!一応チラッとだけ概要に書いているのですが、バチコリと読んでおります!元ネタは某なろう系のものです!お褒めの言葉並びに応援のお言葉をありがとうございました…!本当に励みになっております! (2020年9月14日 2時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
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