ifの話ーKPー (ページ30)

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４. ページ30

…

「なに、どうしたの」

「いや別に、なんもないけどさ、」

目の前の瞳が、行き場を失ったようにキョロキョロする。

そこでやっと気づいた。

――付き合ってから、2人でお泊まりするのはこれが初めてだ。

「あ、えっと、……」

……あれ、さっきまで俺、どうやって紫耀と接してたっけ？

なにか言おうとしたものの、言葉にならないまま声は消えてしまった。

平然とハグしていたのが嘘のように、心臓はバクバク響いて止まることを知らない。

だいじょぶ！落ち着け海人！

紫耀と夜を過ごすからって、気にすることなんかなにも……！

「あー、紫耀、お風呂沸いてるよ！入る？」

確認してないけどもう沸いてるよね！

普段は「一緒に入る！」と飛びつくんだけど、今日ばかりはできそうにない。

「お風呂……、あ、ありがと」

「うん。着替え、いつものとこだから」

紫耀の反応が一瞬遅れた理由は考えないふりをして、なにごともないかのように振る舞った。

「……ふぅ」

その背中がリビングから消えたところで、なぜか一息。

泊まるか聞いた直後の紫耀の顔を思い出す。

寂しかったと縋ったり、無邪気に抱きついたりすることはできるのに。

こんな照れくさい時間にはまだ、慣れていない。

……だけどちょっとだけ、そんな時間が嬉しくて。

「もっと紫耀と、」

ぼんやりと真っ暗なテレビを見つめながら呟く。

付き合ってちょうど１か月。

俺らの関係は、そろそろもう少し前に進みだしそうな気がした。

―END―

…