#d9333f 2nd 【夕闇に誘いし漆黒の天使達】

.8 ページ24

.
.
.

まさあきは私のことを連れて、もう荷物も運び終わって、ガランとした楽屋の椅子に座らせてくれた。



しん、と静まり返った楽屋に私が鼻をすする音だけが響いて、少しずつ冷静さを取り戻す。


千葉「…落ち着いてきた？」

『…うん…ありがとう…まさあきかっこいいじゃん』

千葉「無理すんなよ」

『……うん。ごめん』


冗談を言って、大丈夫って伝えたかったのに、
大丈夫じゃないのが、まさあきには見透かされてしまった。

大丈夫、なんかじゃない。
私の目の前ではずっとさっきの映像がゆらゆらと揺れていた。

千葉「ま、泣き止んだからよかった」

『ありがとね』

千葉「どーする？打ち上げ」

『でない…かな』

こんなに顔だし、今は打ち上げて騒げる気持ちになれないし

打ち上げに行ったら、小柳さんに会ってしまう。

今は、顔を見たくない。

これからは……


千葉「そっか。じゃ、帰るか」

『ん。え？まさあきも』

千葉「うん。帰る」


A送るし、
と鞄を持って立ち上がるので、私も立ち上がった。

『まさあき運転できないじゃん』

千葉「悪りぃけど電車だよ笑」

『めちゃめちゃ時間かかるじゃん』

千葉「いーじゃんたまには」


そもそも、車はともやくんが運転して帰るか。


ゲリラ豪雨だったのか、外に出ると雨は止んでいて
湿った寒い空気が肌に張り付いた。


千葉「さみぃわ。コンポタ買お」


歩いて駅に向かってると、まさあきは自販機で止まったので、後ろで待つ。


千葉「はい」

『なにこれ』

千葉「Aココアでしょ？」

『…ありがとう』


私の好きな銘柄のココアは、じんわりと手を温めてくれて、なんだか安心する。




『聞かないんだね』

千葉「なに？」

『さっき、なんで泣いた？とか…』

千葉「聞いても答えらんないっしょ」

『そう、なんだけど』

千葉「言いたくないこともあるだろうし。話したかったら話せばいいし」

『うん…』





こういう時に一個しか歳は違わないけど、やっぱり年上なのだと思う。

大きな水溜りを警戒しながらも、入ってしまうところを見ると、やっぱり思い過ごしかな、とも思うけど。




まさあきは何も聞かないでいてくれて、
今日のライブの話でもなんでもなく、
ただいつものように話してくれる。

今それだけでありがたい。




電車に乗って、暗い窓の外を見ながら、これからのことを考えたのに、答えは見つからず、ゆっくりと目を閉じた。


.
.
.

.9→←.7

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す