Story 57 ページ9
目を覚ますと、そこは見慣れた白い天井だった。
カーテンの掛からない窓から差し込む光に目が開いた。
管理された温度、管理された明るさ。
危険のない、汚れることのない、俺たちの家。
……俺の部屋…か。
6人揃いの家具に、
パッと目を引く、黄色の時計が午前九時を指していた。
…昨日Aさんの家から連れ戻された。
元々お姉さんの家に長居するつもりはなかったけれど、彼女と過ごす空間があまりに居心地良くて。
………離れられなかった。
それは、俺だけじゃなくて。
あの理知的な樹でさえも、帰ろうと言い出さなかった。
もう一度だけ、
……いや、一度じゃ足りねぇか。
「……、……………、！」
ドアの外から騒がしい声が聞こえて、ムクリと体を起こす。
大方、慎太郎かジェシーだろう。
透明なガラスの机の上。
強化ガラスのケースの中に、俺の本体が戻されている。
今までは無かった、銀の錠前が白く光る。
俺を守る、忌々しく、優しく、美しい銀色。
好きになった女性は人間。
……俺は、化粧水の精。
その事実を突きつけられる気がして、目を逸らした。
好きな人ができた。
心が熱くなる、冷たくなる、それが分かるようになった。
契約者を「好き」になれ。
先生からそう教わった時、何言ってんだ無理だろって思ったけど。
……先生、俺、ちゃんと好きになったわ。
起きた瞬間から、彼女の面影を必死に集めて
なんとか彼女の形にしようとしている。
契約して貰えなかった事実があるというのに
全く諦める気にならない。
＿＿今度会ったら、その時は＿＿
柔らかな頬の感触を思い出す。
初めて触れた女性が、お姉さんで良かった。
寝癖でわしゃわしゃになった髪を手櫛で整えながら
リビングに続くドアを開ける。
ドアの先にお姉さんはいないのに、
なんだか清々しい。
お姉さんの家で彼女の香りに包まれながら、
首を縦に振らない彼女に焦がれている時よりも。
いつ彼女がいなくなるかと不安な気持ちを、
彼女の笑顔で塗りつぶしていた時よりも。
＿＿今度会ったら、その時は＿＿
お、こーち。
こーち、これ見て！
急かされて目線を移した先に、
見覚えのある6色のカップが並ぶ。
「………。」
これを俺達に持たせるって、どういう意味なの、お姉さん。
俺達との思い出を綺麗に処分して、全部忘れたかった？
…それとも
俺たちに、忘れてほしくないってこと？
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venjamin(プロフ) - アンケートにご協力頂いた皆様、ありがとうございました。びゅーね君の枝分かれ作品となる「私の好きな人」同僚メイン には、樹さんに3人目として登場してもらおうと思います。 (2021年11月14日 1時) (
レス) id: 221b5a88eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：venjamin | 作成日時：2021年8月30日 2時
