声を忘れた君 Ｏ×Ｎ2

決心 ページ8

かずが、俺が仕事にいっているとき、さみしがっていたのはわかっていた。

一人にしてしまった時、そのあと俺から離れなかったこと、忘れたわけじゃないのに。

今日は翔くんがいてくれたから、気にかけてくれたけど、一人の時も同じ行動をしていたとしたら…

その光景が目に浮かんできて、たまらなくなる。


机の上には、かずが日中描いた絵がそのまま置かれていて。

綺麗な絵だけれど、どんな気持ちで描いていたのかと思うと、今は目をそらしたくなる。

ーガチャー

小さな音を立てて、寝室のドアが開いた。

かずが、そっと出てくる。

「かず…」

若干眩しそうに目を細めているけれど、はっきりと目覚めているみたい。

寝ていなかったのか。

「おいで」

言われるまでもなく、こっちに向かっていたかず。

ソファに座る俺の隣じゃなくて、足の間に身体を滑り込ませて床に座った。

そして頭だけを俺の左腿に乗せる。

と思ったら、静かに涙を流し始めた。

「ごめん。ごめんね」

俺の考えが甘かった。

床に座っているかずのわきを抱えて、隣に座らせる。

すると、俺の右腕に両手で抱きついてきた。

いつものような、甘えるのじゃなくて、しがみつく感じ。

「一人にして、ごめん」

翔くんはいたんだけれど、かずにとって意味はあまりなかったのかもしれない。

俺の肩に頭を乗せて、泣いている。

だんだん肩がぬれてくる。

俺はかずの頭を抱えるように抱きしめた。

こんなことを人にしたのは初めてだ。


しばらくそうしていて、顔を見ようと体を少し離したけれど、かずはまだ足りないのかついてくる。

もう時計は１時を過ぎていたけれど、今の俺には関係ない。

明日、仕事休んじゃおっかな…

毎日仕事か、絵を描くことを中心に俺の生活は回っていたけれど、完全にかず中心になった。

あんなに好きだった絵も、放置したまま。かずの絵を見る方が好きだ。


「かず。顔上げてごらん」

だいぶ落ち着いた様子だったから、そっとあごに手を添えてこっちに向かせる。

その目は、あれだけ泣いたにも関わらず、腫れることなくただ俺をまっすぐ見ていた。

「ごめん。俺ちゃんとかずのこと見れてなかったってわかった」

瞬きをするたび、新しく流れていく涙。

袖を使って綺麗に拭ってやる。

「明日から、ずっと一緒にいるから」

さっき漠然と浮かんだ考えは、今確信に変わった。

作者より 懺悔→←想定外

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