三百六十七話 ページ5
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(…もはや完全に鬼だな)
そう心で毒づいたのは、これまで柱達に応急処置を施して来た愈史郎だ。
中々体力を消耗するらしく、額に浮かんでいた汗が横たわるAの頬に落ちる。
「…」
使えるものは全部使った。後はA次第。
心音と脈は非常に弱く、愈史郎のように医学に精通する者でないと死んでいると判断するだろう。
でもAは生きている。
気配が完璧な鬼だろうと、身体中の骨が折れていても、生きている。
(まぁ、また理性吹っ飛ばして暴れられても困るな)
そんな事を思いながら愈史郎は疲れ切ったように目を閉じた。
Aが目を開けたのもその時である。
「……戦、況は」
「!」
掠れた声を聞き取った愈史郎が弾かれたようにAを見やった。
薄く開かれた瞼から覗くは、やはり変わらず紅梅。
だがその瞳には確固とした意志があって、理性が戻ってきている事は簡単に見て取れた。
「…炭治郎と蛇柱が無惨の相手をしているが、いつまで持つか分からない」
「他の、皆は」
「応急処置は終えた」
短く愈史郎が答えると、Aは微かに微笑して身体を起こす。
手首をゆっくりと回す姿は負傷を感じさせないが、呼吸に混ざって聞こえてくるヒュウヒュウといった音が酷く耳障りだった。
「…その様子ならいけるな」
「――ここに戻って来た時点で、そのつもりでした。…色と、痛覚は無いっスけど」
「理性があるだけマシだろう」
「手厳しい…」
まぁ今は痛覚は無い方が良いだろう。動きが鈍る。
愈史郎はAが徐に立ち上がろうとするのに気付き、さり気なく身体を支えてやった。
「…」
「…何だその顔」
「…意外と優しいなって」
「お前などとくだらない話をしている暇は無い。冗談言う余力があるならさっさと立て」
「辛辣…」
そんなやり取りを交わしながら、やっとの思いで立ち上がったA。
普段使いの日輪刀は折れていた。
まだ短刀が残っているのを確認し、炭治郎達の元へ一歩を踏み出す。
「……あ、そうだ」
「何だ」
不意に振り返ったAに愈史郎はやむを得ず不機嫌な顔になる。
それとは対称的に彼女は優しげに目を細めた。
「皆を助けてくれて、師匠の願いを聞き入れてくれて、ありがとうございます」
「…早く行け」
そっぽを向いた愈史郎に眉を下げた笑みを向け、Aは静かに駆け出した。
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名梨(プロフ) - あばんぎゃるどもふねこさん» 温かい言葉をありがとうございます…!ちなみに私の名前は名無しが元になってるので大丈夫です。ありがとうございます…! (2020年5月8日 9時) (レス) id: ecab760345 (このIDを非表示/違反報告)
あばんぎゃるどもふねこ - 名梨さん» いえいえ、私自身の意見なので。何をどうするかは名梨さんが決めることです。個人的な意見に耳を傾けて下さり有難うございます。ついでに言うと名梨さんの漢字間違えてました!なにやってんだって感じですね。申し訳ありませんでした! (2020年5月5日 10時) (レス) id: 9c2226ad75 (このIDを非表示/違反報告)
名梨(プロフ) - あばんぎゃるどもふねこさん» せめて朔と日は良い感じで終わらせたいので、どうぞ温かい目で見てやってください。 (2020年5月3日 20時) (レス) id: ecab760345 (このIDを非表示/違反報告)
名梨(プロフ) - あばんぎゃるどもふねこさん» コメントありがとうございます。申し訳ありません。私自身としては残しておきたかったんですが、色々あった末に消す事になりました。作品を好いてくださりありがとうございます。そして申し訳ありませんでした。 (2020年5月3日 20時) (レス) id: ecab760345 (このIDを非表示/違反報告)
あばんぎゃるどもふねこ - いやっふうう!!やあっと終わりましたね!無限城編!…で、重要なのはこの後ワニ先生がどういう流れにするのか、ですよね。まあ、予想だと続編は出ないと思いますが。新しくお話を作成されるのは喜ばしい事です。私ら一同楽しみにしておきます。 (2020年5月1日 19時) (レス) id: 9c2226ad75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年3月8日 18時