朔と日 第七幕【鬼滅の刃】【竈門炭治郎】

三百七十七話 ページ15

高速で両足を回し、標的を睨み据える。


一見複雑に指に絡んだ鉄線は、ある法則に則って絡めてある。


それを更に難しく絡ませながら、技の手順を頭に思い浮かべた。



『いいか？身体中に溜めた酸素を全て踏み込む脚に注げ』



ダンッと左脚で力強く踏み込んだ。


右脚に力が入りにくいのなら、その分も左脚に注げはいいだけの話だ。



『踏み込む脚以外からは力を抜け』



身体を軽くして、少しでも空気抵抗を減らすために。



『あとは簡単だ。足裏から溜め込んだ力を一気に出すように、跳べ』



どこが簡単だよ。ミシミシメキメキ左脚が言ってるんだが？


流石に折れる事は無いが、それでも負担はかかるだろう。



伊之助の刃が触手に潜り込む。Aがギリギリと歯を噛み締める。



『お前の前世、どうせ兎か何かだろうな。がりっがりのひねくれた野兎』



(うるッせぇわボケ！！)



怒りは人を突き動かす原動力になると、どこかで聞いた。


だからAは、大事な時にはいつもそういう事を思い出す。



地面が、広く深く、同心円状に抉れた。


そして次の瞬間には、もう彼女は遥か上空にいた。



「ッ…」



小指の先に乗りそうなほど小さく見える無惨を見つけ、空中に浮いたまま上体を旋回させる。



『肆ノ型 雨夜月』



気配を消した辺りで急降下しだした。


圧に顔を顰めながら、残りの一本の短刀を口に咥える。


そして両手に揃えて持っていた短刀を、一気に投擲した。



『漆ノ型・改 降リ天月』



肌でいち早く感知した伊之助がぎょっとしてAを見上げる。


そんな彼を通り越し、投擲された短刀達は



「！！」



触手や腕を地面にめり込ませるほどに強く突き刺さった。


無事、炭治郎や伊之助には向かわなかったようだ。



(今だ行け！)



着地したAはそう心の中で叫び、無惨へ突進する。


面食らったような顔を浮かべていた無惨が腕を振り上げようとするが、見た目より大分深く刺さっているようで解けない。



「っ！」



一呼吸の間に距離を詰め、Aが頭を振る。


咥えていた刀の刃が無惨の両眼を裂いた。



(―――…あっ、ちょ)



その時、顔を前方に出し過ぎたせいか、身体の軸がぶれてうつ伏せに横転する。


そんな彼女を激昂する無惨から守るように、炭治郎が攻撃を再開させた。



『日の呼吸 炎舞』『碧羅の天』『幻日虹』



日の幻影が鮮やかに舞う様が、とても綺麗だった。

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