四百九話 ページ9
たった一つの過去を話しただけで、こんなにも心が楽になるとは思わなかった。
半ば力業で炭治郎を引き剥がし、Aは何故かほわほわする気持ちを首を振って振り払う。
「だから死なない。今は、生きていたい」
つむぐの願いだからじゃなく、A自身の望みとして。
引き剥がされた炭治郎は一瞬目を瞠って、そしてすぐ嬉しそうに眉尻を下げた。
「だから…まぁ、うん。今までありがとな」
左手を差し出しかけたが、何とか取り繕って右手を差し出す。
しかし彼はその手を握ろうとしなかった。
「Aはこれからどうするんだ」
代わりにそう問われる。
「……そうだな、とりあえずこの家はぶっ壊す」
「そうか、ぶっ壊…ん?」
炭治郎が、何言ってんだコイツみたいな目をこちらに向けて来た。
「ぶっ壊…?」
「ああ。この家いつ崩れてもおかしくないくらい古いからさ。ならせめて自分の手で壊したい」
そう言ってへらりと笑顔を贈れば、彼は苦しそうな顔をした。
自分の手で壊したい、と言った時に無意識に左手を動かしてしまったからなのか、その瞳はAの無くなった左手を見つめている。
「…まだ痛むか?」
「いや全然」
自分の暴走のせいでこうなったのだと、炭治郎は気に病んでいた。実際そうなのだが、A自身はそう思わなかった。
「大丈夫だって」
「でも…」
「左手無くても生きていけるだろ?どっかの派手神みたいに」
「それはそうだが…」
「利き手が残ってれば何とかなるよ」
「しかし…」
篤実なのも時には罪だ。
顔を合わせれば必ずこうやってうじうじ悩む炭治郎に、Aはいい加減嫌気がさしてきていた。
彼が「でも…」とか「しかし…」と言う度に、彼女のイライラゲージはいっぱいになっていく。
そして爆発した。
「お前なぁ!そんな事でうじうじ悩んでんじゃねぇよ!!」
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RYP!(プロフ) - 懐かしい作品に戻ってきてしまった…!!3年ぶりです、名梨さん。この下にいる暴れまくってる猫の奴はかつての私なのですが、今見ると物凄く恥ずかしいですね。またこの作品を見る日が来るとは思っていませんでした。またどこかで会えたら、嬉しいです。 (12月13日 23時) (レス) id: 4d2d529cd2 (このIDを非表示/違反報告)
ぎゆみかん - 泣いた。ヤバかった。 炭治郎達結ばれた!\(//>∀<//)/ヤッフー すごく楽し(?)かったです! (2020年9月12日 18時) (レス) id: 8ebef6a95a (このIDを非表示/違反報告)
あばんぎゃるどもふねこ - ぎぃやああああああああああ!!!!!!!温泉編きた温泉編きた温泉編きた温泉編きたあああああああああああああ!!!!…コホン、今とても飛び跳ねたい気分ですw (2020年5月19日 18時) (レス) id: 9c2226ad75 (このIDを非表示/違反報告)
ナリア(プロフ) - つむぐさんが出てくるとは思いませんでした!驚きました!炭治郎との2人の話をもうちょっと見たいなぁって思います! (2020年5月18日 20時) (レス) id: 7339556e29 (このIDを非表示/違反報告)
あばんぎゃるどもふねこ - 名梨さん» リクエスト使って頂きありがとうございます!寧塑寺さんの言ってることがなんだかつむぐさんに対する思いみたいで何だかとても嬉しい気持ちになりました!ありがとうございます! (2020年5月18日 17時) (レス) id: 9c2226ad75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年5月11日 10時