朔と日 第八幕―番外― 【鬼滅の刃】【竈門炭治郎】

四百四話 ページ4

宇髄のニコニコがニヤニヤに変わる。全く身に覚えのないAはポカンと彼を見て返した。



「お前も男装なんかするから色々面倒になってくるんだろうなぁ」


「は？」


「頑張れよ」


「は？」



何言ってんだアンタ。そう言いたい彼女に気付いたのか、宇髄はニヤニヤを彼女に向ける。


ここに来る前に炭治郎の病室に寄ったのだと前置きし、こう続けた。



「アイツ、お前の態度が最近素っ気なくて悲しいって派手に沈んでたぞ」



言わずもがな炭治郎である。



「痴情のもつれってやつだな」


「ばッ…、アイツとはそんなんじゃねぇ！」



そう、断じてそう言う感情はない。と思う。


Aが炭治郎にだけそう言う態度をとっているのには健全な理由がある。



「ただちょっと昔の話をしようかと思ったけどいい機会が無くて！」


「…ほぉーん」



しかし宇髄のニヤニヤは止まらない。暫くしてAは諦めた。



「…アイツ、元気っスか」


「ああ。でもまぁ右目と左腕が機能してないのには驚いたな」


「…」


失くした部分だから、戻ってきても元通りにはならなかったそうだ。


それに炭治郎も炭治郎でAの左手の事を気にしている節がある。



「たかが腕の一本くらい…」



思わずそう零した。すると、不意に宇髄が口を開く。



「――…俺はそうは思わねぇけどな」



Aが「え？」と問い返すと、宇髄の手が頭に乗った。



「俺の大事な継子の手を"たかが"なんて言うんじゃねぇよ」


「…へ？」



わさわさと頭が撫でられる。目を見開いてAが固まる。


そうして、その瞳から涙が溢れた。



「よくやったよお前は。よく帰って来た」


「…っ」


「戻ってきてくれてありがとうな」



あぁ今夜は槍が降るかもしれない。



「ッ…アンタ、馬鹿じゃねぇの…」



すっかり緩くなった涙腺を憎みながら、Aは大人しく撫でられ続けた。




・




続けて、一分くらいしただろうか。



「よし、行くか」


「？、――…うへぇ！？」



突然宇髄に担がれる。



「なっ、は！？」


「バレたら面倒だな…窓から出るか」


「ちょッ！？」



そのままお米様だっこをされながらAは三ケ月ぶりに外に出た。



「待っ、う宇髄さん！？アンタなにしてん」


「療養中の脱走は恒例行事だろ？」


「何言ってんだアンタ！って言うかどこ行くんだよ！」


「…さァな」



そうして寧塑寺A。かつての師範に誘拐される。

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