四百三話 ページ3
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宇髄天元。元音柱にしてAの元師範。そして元忍。
隠密なんてお茶の子さいさいで、己の継子の隙を熟知している彼にとっては彼女に気付かれずに近付くのは容易であった。
「なッ、なな何してんだ!!」
「見舞いに決まってんだろうが」
「どんな見舞いの仕方だ!!帰れこの変質者!」
ぎゃんぎゃん騒ぐAに苦笑しながら、宇髄はスタッと軽やかに着地する。
そして携えていた風呂敷を差し出した。
「…何ですかこれ」
「雛鶴特製饅頭」
「さぁあなたを歓迎しましょう」
料理の腕がプロ級の雛鶴の美味しい饅頭を受け取り、ふとAの頭に疑問符が浮かぶ。
「…こんなくすんだ灰色の風呂敷なんて持ってましたっけ」
深く考えずにそう口にして、すぐ我に返った。ハッとして口を押さえる。
一瞬だけ目を見開いた宇髄が、悲しそうに瞳を歪めるのが見えた。
「あ…いやこれは」
「…思ったより面倒な戦いだったみてぇだな」
宇髄の言う戦いで受けた傷は治った。"治るもの"は治ったのだ。
無くなった左手首や右耳の聴覚、そしてついぞ色彩感覚は戻ってこなかった。
「…」
白黒の世界で宇髄が笑う。
「まぁ、その饅頭でも食って元気出せ」
「…はい」
多分ここで笑ってそう言ってくれなかったら、泣いてた。
自分を縛ってたものが吹っ切れたからか何なのか、ここ最近涙もろい。
「で?その左手はどうした?俺とおそろいか?気持ち悪いなお前」
「…こっちの台詞です。んな訳ないでしょ」
宇髄が冗談を言っていつもの空気にしようとしてくれているのに気付き、Aも素直に乗った。
「これは…どっかに落としてきたんスよ」
「なに落としてんだよ、大事にしろよ腕は。とりあえず拾って来い」
「会わない間に随分と馬鹿になりましたねアンタ」
寝台の傍らに置かれた椅子に座る彼にうんざりした顔は隠さない。
一体なにがそんなに嬉しいのかAには分からないが、にこにこ笑う宇髄は唐突にこう切り出した。
「…なるほど痴話喧嘩か」
「は?」
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RYP!(プロフ) - 懐かしい作品に戻ってきてしまった…!!3年ぶりです、名梨さん。この下にいる暴れまくってる猫の奴はかつての私なのですが、今見ると物凄く恥ずかしいですね。またこの作品を見る日が来るとは思っていませんでした。またどこかで会えたら、嬉しいです。 (12月13日 23時) (レス) id: 4d2d529cd2 (このIDを非表示/違反報告)
ぎゆみかん - 泣いた。ヤバかった。 炭治郎達結ばれた!\(//>∀<//)/ヤッフー すごく楽し(?)かったです! (2020年9月12日 18時) (レス) id: 8ebef6a95a (このIDを非表示/違反報告)
あばんぎゃるどもふねこ - ぎぃやああああああああああ!!!!!!!温泉編きた温泉編きた温泉編きた温泉編きたあああああああああああああ!!!!…コホン、今とても飛び跳ねたい気分ですw (2020年5月19日 18時) (レス) id: 9c2226ad75 (このIDを非表示/違反報告)
ナリア(プロフ) - つむぐさんが出てくるとは思いませんでした!驚きました!炭治郎との2人の話をもうちょっと見たいなぁって思います! (2020年5月18日 20時) (レス) id: 7339556e29 (このIDを非表示/違反報告)
あばんぎゃるどもふねこ - 名梨さん» リクエスト使って頂きありがとうございます!寧塑寺さんの言ってることがなんだかつむぐさんに対する思いみたいで何だかとても嬉しい気持ちになりました!ありがとうございます! (2020年5月18日 17時) (レス) id: 9c2226ad75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年5月11日 10時