炎柱ノ独白 ページ38
君は気付いていないだろう。
俺はずっと前から知っていたんだ。君が隠そうと必死になっている隠し事を。
それに俺達は件の柱合会議よりも前に会っているんだ。
あれは確か三年前、俺が偶然お館様のお屋敷にいた時。
『急げ!!早くしないと手遅れになるぞ!!』
『包帯が切れた!早く新しいのをくれ!!』
『出血が止まらない…!』
普段は静穏なお屋敷からは想像もできないような喧騒が響いて来た。
何事かと思ったが、ずかずかと屋敷に立ち入る訳にもいかず俺はただ気配を窺っていた。
しばらくして、廊下を数人が駆ける足音が聞こえて来た。
『さっさと運べぇ!!』
『うるっせぇな運んでんだろ!!』
『ちょっとアンタら黙ってて!!』
見ると、隠達が誰かを担架に乗せて奥の部屋に入るところだった。
当時の俺はまさかあれが君だったなんて思わなかっただろうな。
その少し後にいらっしゃったお館様に聞いてみたんだ。
『お館様、先程のあれは何だったのですか!!』
『…ついさっき運ばれてきた子なんだけどね。ちょっと特殊な状況にあったからしばらくここで保護しようと思ってるんだ』
『特殊な状況?』
『…そこはまだ話せないんだ、ごめんね』
『いえ!お気になさらず!!』
担架から垂れた腕は元の肌が見えないほど赤く染まっていた。
数ヶ月後、俺はまた偶然お館様に呼び出された。
『ちょっ、止まれぇ!!』
『いや、体力の限界まで走れって言ったのはそっちだろ』
『…止まるなぁ!!』
そこで君が塀を飛び越えて来た。
その際に君が女だと知ったのだが、それを君に言ったら恐らく怒り狂うだろうな。
あの時は訓練中なのだろう、凄まじい速さで俺に目もくれず走り去っていった。
『…』
お館様が寧塑寺少女を鬼殺隊員にしようとしていると気付き、俺は賛成する事を悩んだ。
何だあの目は。
他人の命も、そして自分の命さえもどうでもいいと思っているような、冷酷な目。
この俺ですらも背筋に寒気が走ったほどだ。
だから当時の俺は、君の事を「血も涙もない」と勝手に評価し、あまりよく思っていなかった。
『なんだ!お前生きてたのか!』
『ずっと生きてたよ』
あの時の死んだ表情に比べればうんと生きた表情を浮かべる君に、俺は正直驚いた。
たった数年の間にこれほどまで変わっているとは思わなかったからだ。
そして安堵した。
あぁそうか。
君が、彼女を生き返らせたんだな。
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年1月12日 18時