七十四話 ページ34
その後、炭治郎はAの説教を受けながら帰路についていた。
「いいか?どうやらお前の刀鍛冶の人はみたらし団子が好きらしい。またああなった時の為にみたらしを常時懐に入れとけ」
「分かった!」
「そのみたらしは最終手段だ。刀は大事に扱え」
「分かった!」
説教と言うよりも講座と言った方がいいかもしれない。
そしてAは講座から流れるように話題を変えた。
「…それで、何しに煉獄さんの家に行ってきたんだ?」
大体予想はつくが確証が無かったのだ。
蟲柱に話す必要もあった。
「弟さんとお父さんに、煉獄さんの言葉を伝えて来たんだ」
「…そんな状態で?」
炭治郎の足元はおぼつかない。
時折支えてやろうと手を差し出すが毎度やんわり断られる。
「俺が、伝えなくちゃと思った」
力強く前を見据える炭治郎を、Aはまるで太陽でも見るかのように目を細めて見やる。
ふと、彼の手の中にある包みが気になった。
「――それは?」
「あ、煉獄さんの日輪刀の鍔だよ。弟の千寿郎君が俺に持っていてほしいって…」
炭治郎より少し前を歩いていたAの足が急に止まった。
それは自動人形のゼンマイが切れたように唐突なもので、炭治郎は首を傾げる。
「A?」
返事が無い。
背を向けられている炭治郎には見えないが、彼女は今とても驚いていた。
軽く見開かれた双眸が見つめるのは景色ではなく、過去の記憶。
『いやぁ、なンかな?俺に持っていてほしいって渡して来たンだよ』
『…師匠に?』
『何でそンなに不思議そうな顔するンだよ』
『いや、俺以外に知り合い居たんスね』
『心外!』
生きてるだけで蔑まれるような生活だったけど、幸せだった。
「…A…?」
心配そうな声。
歪みそうになる口元を必死に上げ、笑みを作った。
炭治郎になら、言ってもいいのかもしれない。
「―――俺は、お前が羨ましいよ」
君は優しいから、きっと笑って馬鹿にしてくれるよね。
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年1月12日 18時