五十四話 ページ14
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「――っは…!」
目を覚ました瞬間、少女は飛び起きた。
早鐘を打つ左胸に手を当てながら、焦るように周囲を見回す。
そこは最初の空間、無意識領域であった。
戻ってきた。やっと、あの気味の悪い思い出から。
「…?」
ふと、少女の目に何かが映り込む。少し離れた所に黒い塊が落ちていた。
警戒心に好奇心が勝った少女は、息を整えてから小走りでそれに駆け寄ってみる。
「羽織…?」
そう、羽織。
闇色の柔らかな素材でできた羽織が落ちていたのである。
そしてそれはAがいつも羽織っていた羽織と同じものであった。
所々が裂け、それを囲むように血痕が染み込んでいる事を除けばの話だが。
なぜこんなにボロボロなのだろう。そしてなぜここに落ちていたのだろう。
少女の好奇心は膨らむばかり。つい羽織を手に取って持ち上げてしまった。
パラリ
何か細かいものが落ちた音がした。
目を向ければ、どこからか差し込んでいる淡い光に反射して何かがキラキラと輝いている。
少女は大きく目を見開く。
なぜなら、気付いてしまったから。
「なんでっ、砕けてるの…!!」
その細かい破片が、Aの核だったものであると。
なぜ壊れてる?なぜ壊れてる?
どうして正気を保っていられた?どうして正気を保っていられた?
少女の頭はそんな疑問で溢れ返る。
『おい見ろよ炭治郎!もうあんなに駅がちっさいぞ!!』
思い出してしまったあの笑顔。
少女の身体を急に恐怖が蝕み始め、彼女は思わず羽織を投げ捨てた。
それの報復か何かだろうか。
本体が目を覚ましたようで、少女の意識は現実世界に引き戻される。
羽織と核が急速に離れていくのに、気味の悪さはどうしても引き離せなかった。
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"彼女は誰かの手によって殺される事を望んでいる。それが例え鬼であっても構わない。
病気でも自然死でもない、凄惨な死を。全ては、己の犯してきた罪へのせめてもの償いのため"
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年1月12日 18時