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「俺もゼリー食べたい。このスプーン使っていい?」
『はい、もちろん』
味違うんだすごいね。と言いながらグレープ味を取った登坂さんはそれを一口食べる。
『どうですか?』
「うん。美味しい。お店に売ってるみたい」
過大評価の褒め言葉をいただけて思わずほっとする。
「そんで?なんで落ち込んでんの?」
『えっ』
「どうせアコのことでしょ?」
登坂さんを見ると、ふっと笑われた。
全てお見通しってことか…なんで見通せるんだろう。すごいなこの人。
『大したことじゃないんです。ただ、安藤さんのことを知れば知るほど、自分は部外者だと実感するというか…安藤さんには私の見ていた顔とは違う顔がいくつもあるというか。すごく理解していたつもりだったけど全然知らなかったんだなあって…思って』
それがすごく寂しかった。
ただの会社の後輩で仲良くしてもらってるだけのくせに、こんなに出しゃばってる自分が恥ずかしい。
「んーー色んな顔があるのは人間みんなそうじゃない?アコが俺にしか見せない表情もがんちゃんにしか見せない表情も、あんたにしか見せない表情もあると思うよ」
『……なるほど』
「納得した?」
『しました。すごく』
ずっと絡まっていた紐が簡単に解けた気がする。
「あいつの周りにはさ、俺関係で仲良くなった大人しかいないんだ。だからあんたみたいな同年代で好きなアニメとかの話をできるのってすごいあいつにとって貴重というか。大事だと思うよ」
『ありがとうございます』
「いえいえ」
『……待ってください。アニメって…なんで知って…』
「え?アコと趣味が同じで仲良くなったんでしょ?」
『うわ…』
アニメ好きなオタクってこと登坂さんにバレてる…あっさり知られてる…!
「いいよ隠さなくて。俺だってアニメ見るし」
『……じゃあ好きな作品言ってみてください』
「さざ◯さん?」
『それアニメじゃないですよ…アニメですけど…』
「矛盾してるけど」
あはははっと肩を揺らしながら笑う登坂さんのお陰で気持ちが軽くなった。
『すみません。もうそろそろ戻らないと』
「俺もリハ戻る。これ残り全部貰ってもいい?」
『いいですけど…どうするんですか?』
「美味しい物はメンバーにシェアしたいから。じゃまた」
そう言って今日も私より先に出て行く登坂さんを見送った。
顔が少しだけ熱い気がした。
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冷奴(プロフ) - 月の雫2始まりましたね。もし宜しければパスワードを教えて貰えないでしょうか?続きが気に成ります(^-^) (2019年6月30日 15時) (レス) id: 421c109eeb (このIDを非表示/違反報告)
みさ - 家出少女から月の雫まで全部読みました。凄くほっこりして癒され続きが楽しみになりました。またお邪魔しにきます。 (2019年6月30日 10時) (レス) id: 7d7a9a838a (このIDを非表示/違反報告)
u-cyon(プロフ) - コウさん» 続きが楽しみです。素敵なお話と癒しの時間をありがとうございます! (2018年12月17日 20時) (レス) id: 87871eeb75 (このIDを非表示/違反報告)
コウ(プロフ) - u-cyonさん» u-cyon様 ご指摘ありがとうございます。先程確認と訂正を致しました。引き続きよろしくお願い致します^ ^ (2018年12月17日 11時) (レス) id: c03e7cb38c (このIDを非表示/違反報告)
u-cyon(プロフ) - ずっと読んでいます!どうなるんだろうとドキドキしております。36ページの安藤さんの台詞。彼女の台詞なのに、「安藤さん」と言っている箇所があります。たぶん「藤原さん」の間違いなのでは?と思いました。 (2018年12月17日 10時) (レス) id: 87871eeb75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:コウ | 作成日時:2018年11月26日 20時