月の雫

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『岩田さんが安藤さんの…』


「あははっこんなこと人に言うの初めてだからなんか面白い」


『この事知ってる人は、』


「外では絶対関わらないようにしてるし、ほとんど知らないと思う。広臣とか…三代目の数人くらいかな」




そんな重大な秘密を私が知っていいのだろうか。




「まあ、付き合ってるわけじゃないから」


『え、そうなんですか？』




好きな人って言うから付き合ってるんだと思った。
安藤さんは好きだけど、岩田さんはそうじゃないってこと？

でもこの前会った時の岩田さんは…





『あの、この間すれ違った時に岩田さんはすごく安藤さんのことを心配されてるように見えました』


「うん。顔真っ青だったよね」




元々顔白いのにさらに彩度が下がってて面白かった、と笑う安藤さん。






『岩田さんは安藤さんのことをとても好きだと思います。…少なくとも私にはそう見えました』




部外者の私がこんなことを言うのは間違ってると分かっていたけど、今なら聞ける気がした。今なら安藤さんも何も隠さずに話してくれる気がした。





「気持ちがどうであれ付き合えないから」


『……え？』


「藤原さんみたいに人の紹介でこの会社入る人も多いけど、実は元ファンの人も結構いてさ。所属を本気で狙ってる社員ってたくさんいるんだよね」



『そうなんですか…』



「付き合うって彼氏と彼女になるってことじゃん？そういう風に関係に名前が付くと、必死に隠してもどこかからバレてっちゃうんだよね。それで身内に週刊誌に流された人もいて。だから剛典は自分の気持ちは絶対言わないし付き合わない」




難しいよね〜と安藤さんは軽く言っているけど、安藤さんはすごく強いと思った。


だって、好きな人に好きだと言っても
絶対にその気持ちは返ってこないってことでしょう？




なのにずっと好きでい続けるってすごいことだ。

私なら、好きでいることをやめてしまうと思う。







「あ、そうだ。その剛典がね、ゼリー買ってきてくれたんだ。千疋屋のフルーツゼリー！超美味しいから何個かあげるよ」




ゼリー、という単語に思わず私の持ってきたバックを見てしまう。

まさか被るとは…しかも、岩田さんがあげたのは有名店のゼリー。

渡す前で良かった。





『ゼリー大丈夫です。私そろそろ帰ります』


「え、ほんとに？」




安藤さんに笑顔で手を振って、病室を後にした。

なんだか気持ちは沈んでいた。






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