月の雫

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『あの、安藤さんは、体調を崩されたと聞きました。なのにどうして…』


「それは会社で聞きましたか？」


『はい』


「あれは表向きというか…あまり大ごとにしたくなかったので。本当は、"事故"か"事件"というのが正しいんでしょうね」




事故か事件。


高野さんから、安藤さんへ視線を移す。

ベッドで眠っている安藤さんの顔は痣だらけで、頭から左目にかけて包帯をしていた。

服から覗く首や腕にも赤い傷が見える。






『誰にこんなことされたんですか？』




その質問は、聞いてはいけないような気がした。
でも聞かないと気が済まなかった。






「……言っていいのか分かりませんが、義理の父親です。いや、父親と呼ぶ価値もない最低な男です」



その言葉を聞いて、安藤さんの抱えていたものが少しだけ分かった気がした。





「父親のこと、ご存知なかったですか？」




高野さんが、安藤さんの布団をかけ直す。
傷だらけの腕が見えなくなった。




『はい。初めて聞きました』


「そうですよね。私は…少しだけ知っていたので気にかけてはいたんですが…この子ほんとに隠すのが上手くて。こんな事になるまで気付けませんでした」


『そんな…』




同じだ。私が後悔しているように、
高野さんも同じことを思っている。





「すみません私、今現場を抜け出して来ておりまして戻らないといけなくて。もうすぐ前野くんも来ると思うのでその間見ていてもらってもいいですか？」



『は、はい。もちろんです』






そっか。マネージメントって言ってたから…
どこかの現場からわざわざ来たんだろう。


私に、お願いしますと言い残して、
高野さんは足早に病室から出て行った。







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