月の雫

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登坂広臣side



鍵を開けて中に入る。

ここは俺の家ではないけど、俺の家だ。
って意味わかんないか。



部屋に入ると不機嫌そうなアコが仁王立ちしていた。



「ただいま」


「今日友達来てるって言わなかった？」


「そうだっけ？」


「言ったって絶対」




覚えてないわ、と言いながらふとテーブルを見ると、見覚えのある和菓子が置いてあった。ついこの間秋田の空港の売店で見かけたやつだ。買わなかったけど。





「これ秋田の？なんであるの？」


「友達が持ってきてくれた」



変な違和感に眉をひそめる。



「友達って誰？会社の人？」


「新入社員の藤原さんって人。アニメ好きで仲良くなったの。てか秋田のリハいたでしょ？会わなかった？」


「あーーー」



なるほどね。俺が怖がらせて健ちゃんに怒られた人だ。後でちゃんと優しく謝ったけど、絶対怯えてたよねあの人。

あの人とアコが、家に招待するまで仲良かったとは。あの人も相当アニメが好きってことか。そんな感じしなかったけど。





「せっかく貰ったのにあたし今食欲なくて…広臣食べる？」


「いやいや、一昨日まで秋田にいた人にそれ言う？」


あはは、だよね〜〜と言ってお土産を台所へ運ぶアコを見つめる。

食欲がないってことは、




「俺がいない間、お母さん来た？」


「………」




何も答えないってことは肯定ってことだ。
そっか…ほんとしょうもないなあの母親も。







「広臣、大丈夫だよそんなに心配しなくても」


「大丈夫かどうかは俺が判断するから」


「なにそれ」




近づいて、肩を軽く押してこちらを向かせる。





「アコ、やっぱ一緒に住もう。戻ってきて」







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