月の雫

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お手洗いから戻ると、みんな帰り支度をして店を出始めているところだった。慌てて前野さんの姿を探す。



「あの、ちょっといい？」



急に声をかけられて振り向くとなんと、登坂さんが立っていた。



『お、お疲れ様です』




私に登坂さんが、一体何の用だろう…

というか朝のことを思い出して少し、いやかなり怖くて顔すら見れない。






「朝の、あの態度、すみませんでした」


『…………え？』


「寝起きとはいえ、初対面なのに失礼だったなって…後で健ちゃんにも怒られて」



まさかの思ってもいなかった謝罪に、びっくりして頭がついていけない。でも何か言わなきゃ、怒ってるとか勘違いされてしまう！




『きっ昨日遅くまで飲まれてたって健二郎さんから聞きましたし、私は、全然大丈夫です』


「…なら良かった」


『わざわざありがとうございます』


「じゃあ、また」




気まずそうにそう言うと、登坂さんは私から離れて皆さんの所へ戻って行った。

そんな、わざわざ謝ってくれたのか…
健二郎さんも私が傷ついてるって思ったのかな…






「藤原さん、登坂さんと何かあったの？」


『ま、前野さん………』


「だっ大丈夫？！」


『びびびびっくりしました…』





ずっと怖くて見れなかった登坂さんの顔。

ずっと怖いと思ってたけど、さっきの、良かったと言った時の、私に向けた登坂さんの表情はとても柔らかかった。


あんなに優しく笑う人っているんだ…






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