君とカフェモカ

えぴそーど　２９ ページ29

*
　あたしには、ひとつ気になっている事がある。

　それは何でもないことなのだけど、気になりだすと、どうもうまく行かな

くて困る。

　最初からそうしてれば良かったんだけど、いざその時になるとどうも恥ず

かしくて出来ない。

　気になること―――

　それは、あたしはアノ人の事をまだ名前で呼んだことが無い。

　アノ人に出逢って約３カ月―――

　その間、あたしはアノ人の事を「アンタ」とか「ねぇ」としか言っていな

かったのだ。


　やっぱり、名前で呼んだ方がいいよな…？

　あたしだって名前で呼ばれるの、嬉しかったもん。

　でも――――――ちょっと恥ずかしい…


「あのさ…こうへ い？――――――お腹、空かない？」

　―――あれ？聞こえなかったかな？

　航平は驚いた顔して黙ってあたしを見ていた。

「ね？航平、聞こえた？」

　その瞬間、航平は凄く嬉しそうに笑ったんだ。

「も１回！もう１回言って！！」

「えっ？もう１回って――――――？お腹、空かないって？」

「違う、違う！名前！今、航平って言ったろ？もう１回、言って！」

　マジで！？

　何でもない風に言って見えるかも知んないけど、これ結構、恥ずかしいん

だぞ…

　―――しょうがないなぁ…

「航平…」

「ダメ…聞こえない。」

「航平！！」

「うぉっ！もう１回！！」

「なんだよ、もう！航平、航平、こ・う・へ・い！！」

「嬉しい！！スゲ〜、嬉しいよ！！」

　そう言いながら航平はギュッとあたしを抱きしめた。

「１０年後も２０年後も、ずっと、ずっと、そう呼んでくれる？」

　耳元で航平が囁いた。

「――――――う ん…」

「子供が出来ても、パパとか、お父さんって呼ばないで名前で呼んでく

れる？」

　――――――子供？パパ？

　それって、もしかして、航平とあたしの子供ってこと？

　航平はこの先もずっとあたしが側にいる事を望んでくれてるってこと？

「おっ！今のプロポーズみたいだったな――――――でも、考えといて…オ

レの未来はAがずっと側にいること前提だから。」

　ずっと側にいていいの？

　航平の側に、居続けてもいいの？

　心の奥の疑問に簡単に答えをくれる航平。

「分かったよ。ずっと側にいて見守ってるから！！嫌だって言っても側に居

続けてやっから覚悟しときなよ！」

　強がってそう言って見せたけど、ホントは泣きそうになるくらい嬉しかっ

たんだ！

　凄く、凄く嬉しかったんだよ…航平――

*

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