君とカフェモカ

えぴそーど　１９ ページ19

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　時計の針が午後６時半を過ぎると心がザワザワ騒ぎ出す。

　閉店準備のため厨房の中、掃除する手がソワソワ踊っている。

　今日は来ないのかな…？

　いつも、なんの約束も無くフラッとやってきて軽口叩き合って、笑い合っ

て一緒にご飯食べて―――

　気付かないうちに心は待っている。

　アノ人の足音を、笑い声を、あの不敵な笑顔を―――


「Aちゃん、髪、ずいぶん伸びたね…イメチェンするの？」

「えっ？」

　マスターがふいに言った言葉に驚いた。

　そうだ―――

　あの日―――髪を切ろうと思ったあの日、あたしはアノ人に出逢ったんだ。

　少しでも伸びるとウザい髪の毛…

　それでも、どうして今まで伸びたことさえ気付かずにいたのだろう？

　イメチェン…？

　あたしは何をどうしたいのだろう？

　髪を伸ばしたくらいで女らしく変身できるとは思ってない。

　外観が変わってもこの口から出る言葉はガサツで汚い。

　そんな事、分かっているのに少しでも良く見られたい？

　少しでもアノ人にカワイイと思ってもらいたい？

　あたしにも、そんな乙女心がまだ残っていたなんて―――

　アノ人の目にあたしはどんな風に映っているのだろう？

　
「Aはオレのだから…」

　頭の中、何度も思い出しては顔から火が出そうなくらい熱くなる。

　アノ声で名前を呼ばれただけで胸が苦しくなる。

　これは恋？

　アノ人の笑顔を思い浮かべただけでドキドキが止まらない。

　これが恋？

　アノ人の名前を頭の中で唱えるだけで心臓が壊れそうになる。

　その人の名は内村航平…

　ロンドンオリンピック金メダリスト、内村航平―――

*

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