・ ページ33
電話を掛けてきたのはバイト先の店長だった。なんでも、今日のシフトだった子が急に入れなくなったそうで、予約もたくさんで人が足りないから来て欲しいといった内容。そして、電話に出て一番に今日空いているかどうか訊かれ、「一応空いてます」なんて答えてしまったせいで断れなくなってしまい、私はしょぼしょぼ板チョコを冷蔵庫に仕舞うことになった。
まぁ、夕方に帰れたら間に合うはずだ。今日１日パーティーするって言ってたし。
念のため、健人先輩に急にバイトに行くことになったのでなるべく遅くまで聡くんを引き留めて欲しい、といった内容のメッセージを送ると、『おっけ、朝まで彼氏預かるわ』という返事を貰った。聡くんには悪いけれど、今日はオールしてきて下さい。
そうしてバイトのヘルプに出て、18時過ぎまで働き。へとへとになりながら駅まで歩けば車両故障で運休。１時間ほど待って、ようやく動いた電車に揺られて家に着いた頃には20時前になっていた。
急いで晩ご飯とお風呂を済ませて、冷蔵庫から板チョコを取り出す。一瞬、疲れたし時間も無いし作るのを止めてしまおうか、という考えが浮かんだけれど、聡くんや協力してくれた先輩たちの顔が思い浮かび考え直した。今年の私は頑張るのだ。
「よし！」
現在21時28分。カップケーキを作り、開始！ 気合いを入れて、レシピ通りにボウルに材料を混ぜていく。──そうして、場面は冒頭に戻る。
散らかったキッチン。焦げたカップケーキ。何故。プリントアウトしたレシピをもう一度上から確認していく。卵も薄力粉もベーキングパウダーもちゃんと分量通り混ぜた。オーブンの時間だってちゃんと確認して、15分に設定したのに。
「……ん？」
そこまで読んで、私は今初めて見る文字を発見した。設定温度は180℃？ 私さっき何度にしたっけ？ 分からなくて、キリが良いから200℃にしちゃえってボタンを押した記憶があるけれど、勘違いだったりしないだろうか。
「あー、もう。バカだな私」
料理が出来ない、なんてレベルじゃない。レシピさえもきちんと読めないとは。
生活力が無さすぎる自分に、頭を抱えるしかない。あーあ、と焦げたカップケーキにもう一度ため息をついた時、カチャンと玄関から物音が聞こえた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 101人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
