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「うわー! すっごーい!」
「シャチ! シャチがでかい!」
チケットを買って一歩踏み出した水族館は、大きな水槽を優雅に泳ぐシャチやイルカがお出迎えしてくれた。
わあ! と目を輝かせた聡くんが、パタパタと水槽の近くへ走っていく。
「Aちゃん! 写真撮ろ写真!」
内カメでスマホを構える聡くんに招かれて、タイミングよく泳いできたシャチと一緒に写真を撮る。「映えじゃん映え!」とはしゃぎながらパシャパシャシャッターをきる聡くんの隣で、私はそっと息を吐いた。
実は今日、決めていることがある。
このお出かけから帰るまでに。いつもの部屋を飛び出した、非日常の力を借りて、聡くんに好きだと伝えたい、なんて。
告白なんてした事ないから、どんなタイミングでどんな確証を持ってするべきなんて分からないし。
もしフラれたら、明日から気不味くなると思うとやっぱり辞めると叫びたいくらいだけど。
やっぱり、ちゃんと伝えたいと思うから。聡くんに選んでもらったワンピースもイヤリングも、私に勇気をくれる勝負服だ。
「Aちゃん! 外でアザラシコーナーだって!」
そんな、私の決意なんて知らないであろう聡くんは、館内マップから顔をあげてにっこり微笑んだ。
「行こっか!」
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アザラシコーナーでは、スイスイ泳ぐゴマフアザラシに「風磨くんに似てる!」と2人で騒いだり、シロイルカのイルカショーでも「風磨くんに似てる!」と騒いだりしながら水族館を回る。
タコやエビ、タイやヒラメの水槽の前では「美味しそう」と呟いてしまい、聡くんにジト目で見られてしまった。
「うわぁ……綺麗なくらげ」
「幻想的だねぇ」
他のブースよりも薄暗い、くらげの展示場所。
青や紫、緑など色んな色に変わっていくライトに照らされながら、くらげがフワフワと泳ぐ。
「このくらげ、足長いね」
「健人くんじゃん」
「たしかに」
……今日の会話を健人先輩と風磨先輩に聴かれたらめちゃくちゃ怒られそうだな。
構内ですれ違うたびに絡んでくる2人の先輩の顔を思い浮かべていると、いつの間にか隣にいたはずの聡くんが居なくなっていた。
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