こっち向いて、なるちゃん。【赤】 (ページ1)

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幼き日ページ1

いちごちゃん。

近所の公園に行けば、いつもそこにいた。

砂場でばかり遊んでた小さな女の子。

小さくてかわいい女の子。

俺に興味をもってほしくて、こっちを見てほしくて、バカみたいにその子の目の前で砂を掘った。

声をかけたくても、なんて声をかければ良いのかわからなかった。

ふと目に入ったいちごのヘアピン。

何を血迷ったか、俺はそのヘアピンを食べようとした。

「あたしたべられへんよ」

普通に喋るから驚いた。

『…そ、それや。おれがたべたいんは。』

「これ？」

おでこのピンを取って笑った。

＿＿＿笑った。

『うん』

「へんなの」

そう言って立ち上がり、砂場から離れて行く。

『あ。どこいくん？なあ、いかんといて』

女の子は振り向いて、手招きした。

「いっしょにたべよ」

『ええの？』

「うん！はい、どーぞ」

『ありがと』

いちご味のグミ。

おいしかった。

『いちご好きなん？』

「うん、好き」

俺が言われたみたいで嬉しくて、ついにやけてしまった。

『…いちごちゃん』

「え？」

『いちごちゃんってよぶわ』

いちごちゃん。

きっと俺だけがそう呼ぶ。

俺だけにそう呼ばれて、俺だけに振り返る。

＿＿＿それから毎日公園で遊んで、日暮れ時に手を繋いで帰った。

隣の家のくせに公園で待ち合わせして、帰るときだけ一緒に帰った。

ずっといたのに、彼女に名前を聞かなかった。

いちごちゃん。

とても楽しい毎日だった。