心理的背理法(1)-Ⅰ (ページ48)

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夕食はダイニングで食べるようにと呼び出された。

課題を切り上げて向かうと、長机には実に我が家の食卓らしい料理が並んでいた。

お皿には硬いドイツパンが2切れ、申し訳程度の白身魚のソテーに、ボイルした野菜、野菜、野菜…

ホグワーツの夢のようなディナーがすでに恋しかった。

「学校で少し太ったようだわ」

母は私に、可哀想な小動物でも見るような視線を寄越す。

「だからホグワーツではなく、ボーバトンにしましょうと言ったのに」

母はフランス出身で、母校のボーバトン魔法アカデミーに私を入れたがったが、兄が私の気持ちを汲み、ホグワーツへの入学を勧めてくれたのだった。

思えば、兄は幼い頃から本当に良くしてくれたと思う。

私と兄は母親が違う。俗に言う、腹違いの兄妹だ。
兄の実の母は、私が生まれる数年前に亡くなっており、父の再婚相手の今の母とは血が繋がっていない。

兄は黒髪だが、私は母譲りのプラチナブロンドの髪。
兄と父はそっくりだが、私が父から受け継いだのは、新緑の瞳の色だけ。

「マーカスは今年、帰ってこないのか」

「学校で先生のお手伝いをすると手紙が来たのよ。あんなに優秀なのにどうして監督生になれなかったのか疑問ですわ」

なんと。

兄はフーチ先生の罰則を、あたかも勉学の手伝いだと両親に伝えたらしい。

ずる賢いことこの上ないが、兄らしくて口の端が吊り上がるのを抑えた。

「ご馳走様でした」

「もう食べ終わったの？でも今日はデザートは無しよ。
少し痩せないと」

こんなもの食べたうちに入るか。

ナプキンで口を拭い、席を立つ。

母は私の体型を口うるさく管理しようとする。
ちょっとでもふっくらとしようものなら、ワンサイズ下の
ワンピースが入るようになるまで、ご飯が食べられないこともあった。

何事にも完璧を求める母は、私がまるで人形のように美しくなければ興味もわかないのだろうと思う。

月明かりが廊下に差し込んでいる。

お腹がぐぅっと音を立てた。満足感のひとつも味わえない食事は、私の課題への集中力を削いでしまうのだった。