心理的背理法(1)-Ⅰ (ページ33)

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「ホグワーツで俺は、Aの保護者代わりだ」

兄は相当短気だ。普段ならこの時点で爆発して相手に殴りかかっているだろう。意外にも落ち着いている。

「父上と母上に任されているんだ。危険なことはさせられない」
「Aには才能がある。それを選ぶかは彼女自身だ」

ウッドも兄も1歩も譲らない。
クィディッチをやってみたい気持ちはある。事実、箒で飛ぶのは大好きだ。しかし、果たして自分に務まるのかと自問するのもまた確かだ。

「クィディッチは危険だ。ともかく、1年生のうちにAがチームに参加することは絶対にない。絶対にだ！」

ウッドとハリーに向かって言い放つと、兄はそのまま私の手を引いてその場を去った。

入学してからこうして顔を合わせるのは初めてだった。
何も言わずただ先を歩く背中に声をかけた。

「あの…お兄様」
「なんだ」
「怒っているわよね…お父様もお母様も…お兄様も」

私がスリザリンじゃないから、と呟いた。
冷たい風が音を立てて廊下を吹き抜けていく。

「父上と母上はお怒りだろうな」
「お兄様もでしょう？」
「俺はお前がスリザリンじゃなくて良かったと思った」
「え？」

どうして？思わず口をついて出た。スリザリンであることを兄はいつも誇っていた。だからこそ、そうでない私に失望したのだとばかり思っていた。

「Aは真っ直ぐで、いつも人のことを想える優しい人間だ。俺は今のままでいて欲しいから、お前がスリザリンで学ぶべきことは何もないと思った」

組み分け帽子は正しかった、と付け加えた。

途端に、胸の奥底で何かが壊れた音を聞いた。それがそのまま頬を伝って、滂沱と流れていく。
なぜ泣いているのか、自分でも抑えが効かない。とにかく堰を切ったようにとめどなく溢れるのだ。

「お兄様…わたし、私…ここにいても…いいのね」

分かっていても、仕方の無いことだと割り切ったつもりでいても、除け者は辛かった。
家族もグリフィンドールの皆も、誰ひとり私なんていらないんだ、そう思ったら泣くにも泣けなかった。

どうにかこうにか蓋をした孤独が胸を割ってはい出てきては、空いた穴を塞ぐように言い得もなく満たされていく。

初めて存在を肯定されたような気がした。
私はここにいていいのだ、と。

しゃくり上げる私を、兄は何も言わずにただそっと抱きしめていた。