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風見さんをある程度見送ってから、
どこか黄昏ている零の背中を
叩いていたずらに笑ってやる。



『早く部屋に行こ』


「……あぁ」



やけに大人しい反応を見せる零に
首をかしげながら
彼の腕を引っ張り階段を上る。



コツン、コツンと音を立てて振動する
階段に、私も零も恐らく同じ事を
思い出していた。



二人同時に焼きついた悲しくて
残酷で、何よりも憎いトラウマ。




私達はあの日から時が止まったかのような
そんな感覚を引きずっている。




前に進めない私達は、いつになったら
お互いの傷を舐め合う事が
できるようになるのだろうか。



たったそれだけの事すらできないのだ。



そんな勇気が、私にも、恐らく零にも
ない。




……私なんか、憎むべき相手も
真っ当に憎むことが出来ないんだから。





零は自らの足元を見つめながら
瞳を揺らしている。




私なんかよりも零の方が、ずっと荷が重くて、
辛い過去。






『零!』


「っ!」






少し大きめに名前を呼んでやると、
ハッとして驚いた顔でこちらを見上げる
零に、少しため息をついた。







『……大丈夫、この先にあるのは私の部屋
だから』






貴方の大切なものが壊れている様じゃない。




手首を握っていた手を、零の掌まで
滑らせて手を繋ぐ。





零はまた少し驚いていたようだが、
振り払う事もしなかったので半ば私が
強引に握りしめた。





そうしてまた無言で階段を登り、
廊下を進んで私の部屋までたどり着く。





慣れた手つきで鍵を開け、ようやく
零の手を離すと玄関に招き入れた。





「……お邪魔します」






ビックリするくらい小さな声に
苦笑いをして、とりあえず零を
ベッドに座らせた。

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作者名:ももりんご | 作成日時:2018年5月27日 17時

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