僕の隣 (ページ46)

今日:9 hit、昨日:2 hit、合計:34,796 hit

46．違うページ46

＜SIDE大我＞

「大丈夫だよ、母さん。あ、検査入るから。うん、向こう着いたらまた連絡するよ」

一番小さい規格のキャリーケースを引きながら、スマホの通話終了ボタンを押す。

あの日からしばらく経って、

《京本くん、アメリカへ研修に行く気はない？》

病理部長にそう言われ、二つ返事で受け入れた。

それを告げたのは病院の人間と母さんだけ。
もちろんあれから、Aとも父さんとも連絡を取っていない。

「パスポートの提示をお願いします」

平日の昼だからか空いている手荷物検査場で検査官にパスポートを見せる。

すると

「大我っ！！」

後ろから聞こえないはずの、聞こえちゃダメなはずの、だけど聞きたくてたまらなかった声がした。

「…A？」

振り向くと肩で息を切らすAの姿があった。そのすぐ後ろにはコートのポケットに手を突っ込んでこちらを見る松村さんもいた。

「すみません、後でまた来ます」

そう検査官に告げて、レーンから出る。

「Aどうして…」

「松村さんから聞いたっ…」

「…え？」

「アメリカ行くってっ…」

「…そうだったんだ」

駆け寄ると、息を落ち着かせながら必死に話すA。

「一人で何も言わずにこのまま行くつもりだったの？」

「…だって俺…Aに…」

ひどいことをしたから。傷つけてしまったから。会う資格なんて、ないと思ったから。

「私ね、大我のおかげで走れるんだよ」

「え？」

Aは俺の手を取ってそう言った。

「それだけじゃない。大我のおかげでおいしいもの食べたり、きれいな景色を見れた。何より、たくさんの建物を作って、たくさんの人を幸せにしたいっていう夢を持てた」

「…A」

「私、ほんとにっ…ほんとに大我に救われた」

「…」

「だからっ」

ぽろぽろと涙を流しながら声を絞り出すA。

「違うっ…」

気づいたら俺も泣いていて、握られた手を握り返した。