僕の隣 (ページ29)

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29．上等ページ29

＜SIDE北斗＞

「目、覚めたんだ。具合どう？」

「大丈夫です…私あの…」

一歩病室に入ると、俺と目が合って気まずかったのか抱きしめられていた腕を解いたA。

「資料室で倒れてた。びっくりしたよ。心臓止まるかと思った」

「…すみません、お騒がせして」

「でも京本さんがすぐに電話出て、処置の仕方教えてくれたからさ」

「…そうだったの？」

俺の言葉を聞いてAは驚いた様子で京本の方を見た。

「うん、まぁね」

「…そっか。ありがとう、大我」

「あの、松村さん」

でも京本は、Aのお礼を無視して立ち上がると、

「正社員のお話、なかったことにしてください」

俺の方を見ながら言い放った。

「ちょっと、大我っ？」

「は？」

京本の腕を掴むAと驚く俺。

「正社員になったらこんなこと増えるかと思うと俺仕事なんかできないよ」

「だけど…私がやりたくて…」

「それでもダメ。数値に問題はないけど、体に負担がかかるかもしれないでしょ？」

「…大我…」

Aの訴えに耳を傾けようとしない京本にもう我慢できなかった。

「いい加減にしろよ、あんた」

俺は京本をにらみつける。

「…何です？」

「Aの婚約者だろ？だったら、Aのやりたいこと尊重してやれよ。
Aのこともっと分かろうとしてやれよ」

「…あなたにそんなこと言われる筋合いない」

「あるよ。俺はこいつの上司だ。Aは才能がある。働く意欲だってある。
確かに今回のことは会社にも責任があるけど、誰が見たって過剰労働なんかじゃない」

負けじと言い返してくる京本に俺も折れるわけにはいかなかった。

「松村さん、Aの何を知ってるんですか？」

「知らない。でも、こいつが仕事をしてる時の幸せだけは知ってる」

「…は？」

「Aをお前の幸せのために利用するな」

「…ふざけてんのはどっちだよ」

頭に血が上ったのか俺の胸倉を掴もうとしてくる京本。

「ちょっと大我っ！」

とAが止めに入ろうとした時だった。

「…はい、京本です。…すぐに戻ります」

京本の電話が鳴って、呼び出されたようだった。

「…あんたにAは渡さない」

電話を切った京本は俺の耳元でそう言うと、そのまま病室を後にした。

上等だよ。そう出るなら俺だってやらせてもらう。