僕の隣 (ページ11)

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11.　久々猫背ページ11

病院の自販機の前でコーヒーが出てくるのを待っていると、

≪あ、初めまして。京本です。Aの会社の方ですか？≫

なぜか昨日の京本の言葉を思い出してしまった。

…なんで？なんであいつがAのやりたいこと迷わせる権限があるわけ？

イライラしていたら、

「…え、は？」

なに、最悪。自販機のコーヒーお金入れたのに出てこない。

「…どいつもこいつも」

幼馴染と自販機がムカついてちょっと蹴っていると、

「あははっ。北斗くんが八つ当たりとは珍しいね」

すぐそばで聞き慣れた声がした。

「…深澤先生」

「久しぶり」

声のする方を見ると白衣を着て、黒縁メガネを掛けた猫背の深澤先生が立っていた。

深澤先生は俺の姉さんの元主治医で、しょっぴーの上司。高校からの顔見知りで、全然歳を取らない。
どこか抜けてるけど、実績が高く、評価されてるらしい。ちなみにしょっぴーはこの人に憧れて精神科医になった。

「お久しぶりです。パリから戻られたんですか？」

「うん。まぁね。あ、おいしいクッキー買ってきたんだけど食べない？会議まで時間、まだあるでしょ？」

「…ありますけど」

「イライラしてる時は脳が糖分欲してるって同期の脳外が言ってたよ」

「…じゃあ」

妙な説得力のせいで、俺は気づけば猫背について行っていた。

「うまっ」

「あははっ。もっと食べな？」

深澤研究室と書かれた部屋で、ネイビーの缶に入ったクッキーをつまむ俺と、それを笑いながら見る深澤先生。

「北斗くんいくつになったんだっけ？渡辺くんの1個下だからぁ…」

「今年27になります」

「早いねぇ。初めて会ったのが高2の時だから…ああ、もうそんな経つのか」

「先生は？」

「俺ー？俺はぁ…秘密だよっ」

俺の質問に人差し指を唇に当てて答えるポップな先生。

「…ほんと先生って分かんないですよね」

「何がよー」

「…天才なのか奇人なのか」

手を叩いて笑う深澤先生を横目に、俺はコーヒーを一口飲んだ。

「で？何をそんなにイライラしてたの？」

「…いや、別に」

本題に入ろうとする深澤先生から俺は目をそらす。

「またまたー。精神科医の前で嘘つく気？」

「…ずるくないすか」

「まぁ、無理にとは言わないけど」

この人の何でも見透かす様な言い方はやっぱり未だに苦手だ。