君の隣

39．やけに素直 ページ39

＜SIDE北斗＞


−1週間前


「…うん。良かったよ」


姉さんは隣で微笑みながらそう答えた。


「…本当の家族のこと、思い出せて良かった？」

という俺の質問への答えだった。

「いつも不安だったの。一部分の記憶が抜けてるから、私が私じゃないみたいで。
毎日、何度も考えた。私は一体、誰なんだろうって」

「…姉さん」

「もちろん、北斗やお母さんやお父さんといたら幸せだったし、
ああ、もう別にこのまま思い出せなくてもいいかなって思ってた。
でもやっぱり、それは甘えや逃げでしかなかったんだよ」

「…うん」

「…だからね、渡辺くんにはほんと感謝してるの」

「…感謝してるの？」

「うん。渡辺くんのおかげで、ちゃんと思い出せたから」

「…」

「渡辺くんね、できるよって、言ってくれたの」

「…え？」

「話聞いてくれて、お前なら克服できるよ、俺も手伝うからさって、言ってくれた」

そう話す姉さんの顔は嬉しそうで。

「ちゃんと向き合おうって思ったの。自分の過去の痛みとか、苦しみとかに」

「…辛くない？」

「…少し辛いけど、辛かったけど、これで良かったんだって心の底から思ってる」

「…そっか」

俺は姉さんの話を聞き終えて、一言そうつぶやいた。

「…あ、そうだ。これ」

少しの沈黙の後、気まずさを紛らわせるためか、
姉さんがテーブルの上からある物を取って、俺に手渡した。

「返しといて？渡辺くんに」

それはあの人のスマートフォンだった。

「私、多分もう少し学校行けないから」

「…分かった。返しとく」

「北斗も今日はやけに素直じゃん」

俺がそう言うと、姉さん少し笑った。

ああ、姉さん、もう大丈夫なんだ。

良い意味で、俺なんかいなくても、もう大丈夫なんだ。

そう思ったら、自分でもびっくりするぐらい素直になっていた。

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