26.きれいなひとだから ページ26
<SIDE翔太>
「俺、深澤。ここの医者。Aちゃんのカウンセリング担当」
案内された研究室で差し出された名刺には臨床心理士・深澤辰哉と書かれていた。
「…松村のクラスメートの渡辺翔太です」
「渡辺くんね。お茶にする?コーヒー?」
「…コーヒーで」
「はいよー」
俺が自己紹介すると先生は立ち上がって飲み物の準備を始めた。
「あ、もしかして発作の原因、君?」
さっき先生に言われた言葉が頭の中をぐるぐる回っていた。
「…あの」
「んー?」
「…発作…って?」
俺はコーヒーを入れる先生に思い切って聞いてみた。
「…あー。んーと、君昨日、Aちゃんに触ったりしなかった?」
「…あ、はい。あの、追いかけてて、腕掴みました」
「…そんとき過呼吸みたいになってたでしょ。
泣いて、君の声なんかまるで聞こえてないみたいに怖がってなかった?」
「…はい」
「それが発作。はい、コーヒー」
先生はそう言うと俺にマグカップを渡した。
「…どうも。…あの」
「んー?」
先生は椅子に座る。
「…松村って…その」
「うん」
「…病気…なんですか」
「…んー…」
先生は持っていたマグカップを置き、メガネを直した。
「個人情報だから詳しくは言えないけど…まぁ、そうだね。心の病気」
「…心の病気…」
「でも初めてだよ」
「…へ?」
「この病院に家族以外でお見舞いに来たの、渡辺くんが初めて」
先生はそう言うと少し微笑んだ。
「…そうなんですか」
「仲良くしてあげてよ。Aちゃんとさ」
「…は?」
先生の言葉に耳を疑う。
「え、何?」
「…いや、あの、てっきり、もう関わんなって言われるのかと…」
「んなこと言わないよ。あの子の病気は薬や手術では治らないから」
「…不治の病ってやつですか」
「そうだね。心が治らない限り不治の病、だね」
「ど、どうやったら治るんですかっ」
「おお、食いつくね」
「あ、すいません」
前のめりになった俺を見て笑う先生。
「彼女が自分自身の傷を克服しなくちゃいけない。でもそれは一人じゃできないんだよ」
「…え?」
「君みたいな身近な人に少しずつ助けてもらいたいんだ。頼めるかな?」
「…いや、でも俺なんか…」
「大丈夫。できるよ。渡辺くんはきれいな人だから」
「…は?」
「あ、ごめん。診察の時間だ。もう病室にいるはずだよ、Aちゃん」
その言葉を理解できない俺を置いて、深澤先生は研究室を出て行ってしまった。
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小鳥(プロフ) - しょぴたんさん» しょぴたんさん!完結して日数経っていますがこうしてコメントいただけてとっても嬉しいです。なべほくいいですよね…笑こちらこそ作品読んでくださってありがとうございました><またしょっぴーとは別の作品でお会いできるよう頑張ります! (2019年9月9日 22時) (レス) id: e764ad7d51 (このIDを非表示/違反報告)
しょぴたん - しょっぴーの作品なにかないかなーと思って出会った作品。北斗のことも大好きなので、推し×推しという最高の設定。いざ読み始めたらとても素晴らしい作品で一気に読んでしまいました!こんな素敵な作品に出会わせていただきありがとうございました! (2019年9月8日 22時) (レス) id: 3b873b3050 (このIDを非表示/違反報告)
小鳥(プロフ) - あーべちゃんさん» あーべちゃんさん!お読みいただきありがとうございました!面白かったという感想、とってもとっても嬉しかったです。何度も読み直していただくと新たな伏線?みたいなのが見えてくると思います!新作も楽しみにしていただけると嬉しいです! (2019年8月24日 23時) (レス) id: fc4bc2a384 (このIDを非表示/違反報告)
あーべちゃん - とっても面白かったです。終わっちゃいましたけど、これからも読み続けます! (2019年8月24日 22時) (レス) id: cbb25d61fe (このIDを非表示/違反報告)
小鳥(プロフ) - 神ななさん» 神ななさん!ありがとうございます!心に響いたようでとても嬉しいです。しっかり読んでくださったからこそだと思います。ありがとうございます。新作執筆中なので楽しみにしていただけると嬉しいです! (2019年8月24日 17時) (レス) id: fc4bc2a384 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鳥 | 作成日時:2019年8月10日 21時