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時間が、止まったような気がした。
欲処理…？
俺が海人をそんなふうに見たことなんて、たったの1度だって無いけど。
「…おまえ、ほんとに何言ってる？」
「あれ、違いましたか？執事が主人に手を出して解雇になったと聞いたんですがね。主人からふっかけたとか言っていたやつもいたので、てっきりそういうことかと」
「誰から、そんな…」
そこまで言いかけて、はっとした。
使用人の中に、海人をよく思わない人たちがいた。
基本的に気怠げで、中途半端に近しい人から見ればやる気がないと捉えられがちな海人だから、よく分からない噂が出回ることもあった。
解雇になった理由は伏せられていたけど、噂好きの使用人たちのことだ。どこかから漏れていてもおかしくない。
「分かりましたか？便利ですねぇ、お喋り好きの集団は。守秘義務も何もあったもんじゃない」
「……だとしても、欲処理とかそんなんじゃ」
「本当にそう言えますか？」
「何が言いたいの…」
「執事は主人に逆らえません。したくなくても主人にやれと言われればやるしかありません。中村海人は、本当にあなたと行為をしたいと思っていたのですか？あなたの欲処理に付き合わされただけ、と言われても文句は言えませんよ」
「っ、」
そんなこと無い、なんて、言えなかった。
俺が海人に強要した？本当はしたくなかった？
じゃああの時、想いを繋いだ時、キスよりも先をねだらなければ海人はまだここにいたの？
…それはそうだ。
海人はきっと、俺がやるなって言ったことはやらない。
今海人はどんな生活を送ってる？俺の欲処理に付き合わせたせいでここを去らなければいけなかった海人は、何を思って俺を抱きしめたの？
繋いだと思っていた気持ちは、本当に同じだった？
今まで俺は悲劇のヒロインぶって海人と過ごせない事実に打ちひしがれていたけど、1番の被害者は海人じゃないか。
「僕も海斗様の欲処理、お手伝いさせていただきますね」
海人に対する罪悪感に苦しいほどに襲われて、自分の体に伸びてくるその手を振り払うことはできなかった。
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作者名：翡翠 | 作成日時：2023年9月8日 14時
