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その次の記憶は、小学校に上がる前の年の、冬の日のこと。
母親同士が、…おそらくどちらもの負担を軽減するために、俺らは日替わりでお互いの家で遊んでいた。
その日、いつもなら迎えに来てくれる時間に、母さんは来なかった。
何度かけても、電話にも出てくれない。
「…見に行ってみよう、」
海人のお母さんに連れられるまま、靴を履いて、家の外に踏み出して。
顔を上げた瞬間、それは目に飛び込んできた。
「…ぇ、」
「海斗のおうちが、!」
「…まま、」
歩いて数分とかからない距離だ。
真っ赤に燃え上がる炎が、その場からでもよく見えて。
そしてそれは、俺の脳にはっきりと刻まれた。
ショックが大きすぎて記憶が曖昧だけど、そのあとすぐに通報されて消火活動が行われた俺の家は、半壊、と言える程度の被害だったらしい。
…家、は。
その中にいた俺の母さんは、そのまま帰らぬ人となった。
“…海斗、幸せに、なってね”
息を引き取る直前、一瞬だけ意識を取り戻した彼女が俺に向けて微笑んだ顔と、それと一緒に置いていった言葉は、きっと一生忘れないんだろう。
その証拠に、『幸せになって』という弱々しい声が、呪いのように頭にこびりついている。
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作者名:翡翠 | 作成日時:2023年5月16日 18時