【名探偵コナン】鈍色が晴れる頃5

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あれから大分時間が経ったというのに、まだ黒煙が空を汚している。

怪我人でも出たのだろうか。
鳴り響き始めたサイレンの音と、どこかで泣いている子どもの声。

遠くに見える観覧車が異様に寂しい。



(……おか、しいな…)



現実逃避をするように遠くへ視線を向けたが、目の前の光景は何も変わらない。

頭が真っ白になり、視界に入った人物にただ呆然とした。

混乱。困惑。誰でもいい。
これは夢なのだと殴って起こしてほしい。

理性は行き場を失い、ぐちゃぐちゃな感情に一気に飲み込まれる。


「もう終わりだ」と誰かが言った気がした。


ああ、心臓がうるさい。

ゴンドラの爆弾はとっくに止めたはずだろう。
留まる用はないはずじゃないか。

それなのに何故まだここにいるのだ。

まるで長い時間をかけて作ってきた芸術作品を、目の前で壊されたような気分だった。


(………ど、うして)


氷室の動画を見つけたあの日から、暗い世界で生きてきた。

命の危機を感じる場所に何度も足を運び、街中で笑顔の人を見かければ羨望の眼差しを向けていた日々。

体に爆弾を付けられようと、全ては今日のために。

"彼は死ななかった"という事実、五体満足なら万々歳。
人生をかけ、世界に抗ってきた甲斐があったというもの。

5枚の桜の花びらを守ることができたのなら、それで良かったのに。


(……こんな…はずじゃ…)


黒いスーツを身にまとい、大人っぽくなった姿に時間の流れを感じた。
長い距離走っていたのだろうか。
息が上がっており、汗も少しかいている。

右腕を掴んでいる手は、あの頃よりもずっと大きくて。



「…ｯ、今度こそ、逃さねぇ」



けれどこちらを見据える真っ直ぐな眼差しは変わっていなくて、久々の声に全身が震える。

桜の記憶が脳裏をよぎり、何もかもがキラキラしていて、がむしゃらだったあの頃に何度も見たその色が重なった。

込み上げたのは、彼が氷室の前に現れてしまったことへの絶望か。

それとも最期に会えたことへの喜びか。

潰されそうな程に強められた左腕の痛みなどどうでもよく、現れた英雄にただ見惚れることしかできなくて。





「…覚悟は、できてんだろうな───A」





2年ぶりの松田の姿と、鼻を掠めた煙草の香りに、ほんの少しだけ視界が滲んだ。





残り2分。

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