File170 ページ3
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真夜中の静けさが支配するその場所で、2人は互いを見つめ合ったまま。
「まさか…こんなところで会えるなんてな」
1年半ぶりの姿。
被っているフードから長い黒髪が垂れ、大きく開かれた灰色の瞳がこちらに向けられている。
手に持っていたを拳銃を腰へと戻し、彼女の名を呼んだ。
「A」
「……」
黒髪の間から覗かれた灰色は変わらないまま。
何も言わないAにグッと唇を噛み締め、溜めていた言葉が堰を切ったように流れ出した。
「っ今まで…どこにいたんだよ…!
オレも零も…ずっと心配してたんだぞ…!?」
姿を消して1年半。
公安として忙しい毎日を送る中で、些細な情報があればそれを拾い集めていた。
何を告げず居なくなって、どこにいるのか、無事なのかと騒めく胸は治まることを知らず。
自身と同じ思いで憂う親友の横顔を、何度見たことか。
「……ごめん」
眉間に深い皺が入った諸伏の表情を見るなり、頑なに閉ざされていたAの口が開かれた。
握られていた拳は解かれ、申し訳なさそうにこちらを見つめている。
あまり責めることはしたくはなかったが、諸伏は弱々しくなっている彼女の核心をついた。
「追ってるのは…氷室雄人だろ?」
「…知って、たんだ」
諸伏の口からその名が出るとは。
公安の情報網を甘く見たことはなかったが、もうそこまで調べられていたのだとAは少しだけ動揺する。
ならば自分が行方をくらませた理由もわかっているのだろうと、灰色が切なげに歪められた。
「本当はもっと早くに決着をつけて戻りたかったんだけど…」
「A…」
そんな言葉が欲しかったのではない。
伝えたい思いはまだまだあったけれど、一杯一杯の様子のAに諸伏は言葉を悩ませる。
髭を生やし、逞しくなった姿でも、あの頃と変わらない彼の優しさ。
そこに感謝はしつつ、Aは自嘲気味に口を歪ませた。
「でも…駄目みたい。
…ボンバからは、逃げられないから」
「!…っその、左手…!」
少し袖を引いて見せた左手首。
黒光りしたそれは、何度も資料で見たもの。
諸伏の目が見開かれたと同時、彼の後ろから新たな足音が聞こえた。
一瞬で反応したAは、勢いよく後ろへ走り出す。
「!…っA!!」
あっという間に遠くなっていく彼女の足音。
諸伏の声に振り返ることなく、Aは再び闇に消えていった。
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七草(プロフ) - ふゆりぬさん» ふゆりぬ様はじめまして〜!当作品をご覧いただきありがとうございました…!楽しんでいただけましたら嬉しいです!お言葉に甘えて来年もやらかさせて(?)いただきます…! (2022年12月27日 20時) (レス) id: d39847a71a (このIDを非表示/違反報告)
七草(プロフ) - 早桃さん» 早桃様!この度をお付き合いくださり、また数々のコメント本当に嬉しかったです!ありがとうございました! (2022年12月27日 20時) (レス) id: d39847a71a (このIDを非表示/違反報告)
ふゆりぬ - 鈍色編完結おめでとうございます!!松田くん推しなのでほんとにキュンキュンしながらとっても幸せな時間を過ごさせてもらいました。これで終わらなくてよかった、、じゃんじゃんやらかして下さい!笑これからも応援しています✨ (2022年12月26日 21時) (レス) @page50 id: b50b7f8ace (このIDを非表示/違反報告)
早桃 - 鈍色編完結おめでとうございます!!思いを伝えられてよかった…😭何回もごめんなさい! (2022年12月26日 12時) (レス) @page49 id: f9af42ef58 (このIDを非表示/違反報告)
七草(プロフ) - マシュマロ。さん» コメントありがとうございます!色々回収しました!(語彙力皆無) (2022年12月22日 22時) (レス) id: d39847a71a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:七草 | 作成日時:2022年12月4日 0時