File183 ページ16
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警視庁の喫煙所にて。
「なんかすげーことになったなぁ…」
煙草を片手に天を仰いだ萩原は、ここ数日の出来事について振り返っていた。
音沙汰なかった同期からの突然の連絡に、ずっと探している彼女の現状。
そして再び現れるであろう爆破犯。
スッと細めて隣にいる親友を横目で見る。
「なぁ松田…4年前のこと、覚えてるか」
「忘れたことは1度もねーな」
「…俺もだ」
爆処として多くの現場を見てきた中で、1番心に残っている。
怒りで震えるAの声は萩原を動かし、結果命を救ったあの日のこと。
彼女がいなければ、萩原は死んでいた。
あの後悔を2度としないよう、今日までやってきた。
「生きてほしい」。
あの時そう懇願していた彼女が今、危殆に瀕している。
2年間、ずっと探し続けてきた大切な存在が。
ならばやることはひとつだと、松田は煙を吐いた。
「アイツは死なせねぇ。
んでもって爆弾も止める。それだけだ」
「だな」
爆破犯との因縁に終止符を打って、Aを救う。
1度で片付けられるなら好都合だ。
ようやく終わりが見えてきて、萩原は2年前の彼女との会話を思い出した。
「Aちゃんが帰ってきたら、あの店連れてこーぜ」
「アイツ酒飲めねーだろ」
「細かいことはいいんだよ。『楽しみにしてる』って、言われたからな」
地域課にいたあの頃のように他愛もない話をして、仕事に疲れた彼女の愚痴を聞く。
長い時間経とうが、労う約束を忘れてはいない。
随分待たされたものだと思いつつも、無意識のうちに萩原の口元は緩んでいた。
「……」
ポケットから手を出した松田の指には銀のチェーンが絡んでおり、その手のひらにはタンザナイト。
薄暗い喫煙所のライトで青と紫が輝いている。
あのクリスマスの日に渡した時から色褪せないまま。
顔を綻ばせて受け取ってくれた彼女を思い出し、しばらく見つめてから、そっと包むように握りしめた。
「…ソレも、ちゃんと返すんだろ」
「あたりめーだ」
話したいこと、やりたいことが沢山ある。
会えなかった時間がどんなに重いものだったのか。
存分に語って、2年間の空白を塗り潰して、彼女の笑顔をもう一度。
運命の日は、すぐそこだ。
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七草(プロフ) - ふゆりぬさん» ふゆりぬ様はじめまして〜!当作品をご覧いただきありがとうございました…!楽しんでいただけましたら嬉しいです!お言葉に甘えて来年もやらかさせて(?)いただきます…! (2022年12月27日 20時) (レス) id: d39847a71a (このIDを非表示/違反報告)
七草(プロフ) - 早桃さん» 早桃様!この度をお付き合いくださり、また数々のコメント本当に嬉しかったです!ありがとうございました! (2022年12月27日 20時) (レス) id: d39847a71a (このIDを非表示/違反報告)
ふゆりぬ - 鈍色編完結おめでとうございます!!松田くん推しなのでほんとにキュンキュンしながらとっても幸せな時間を過ごさせてもらいました。これで終わらなくてよかった、、じゃんじゃんやらかして下さい!笑これからも応援しています✨ (2022年12月26日 21時) (レス) @page50 id: b50b7f8ace (このIDを非表示/違反報告)
早桃 - 鈍色編完結おめでとうございます!!思いを伝えられてよかった…😭何回もごめんなさい! (2022年12月26日 12時) (レス) @page49 id: f9af42ef58 (このIDを非表示/違反報告)
七草(プロフ) - マシュマロ。さん» コメントありがとうございます!色々回収しました!(語彙力皆無) (2022年12月22日 22時) (レス) id: d39847a71a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:七草 | 作成日時:2022年12月4日 0時