12月25日��_愛しい彼女 ページ10
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口に柔らかい感触。
気づけばAの長い睫毛が目の前にあり、自分の手は空をかいて、ブワッと全身に熱が広がる。
当然思考は停止して、それはゆっくりと唇が離れてもすぐに治ることはなかった。
「…っはぁ……あ、った……まった？」
「……………………お前なぁ…」
あとの第一声がそれか。
言いたいことを整理しようとしても上手く言葉がまとまらない。
血液が煮えたぎっているような感覚。
初めての彼女からのキスが送られるなど誰が予想できたのか。
今までそんな素振りは一切なかったというのに、随分と大胆なことだ。
これも今日という日のせいなのか。
困惑と歓喜が入り混じって、松田は俯いたままのAを見る。
「……大分、コレ…恥ずかしいね」
「…自分からしといて何言ってんだ」
「だって陣平、冷えてた、から…
…なん、とか…しないとって…お、もって…」
はっきりしない言葉はきっと酸欠のせいではない。
長い黒髪から覗いた赤い耳が小動物のように小さく震えていて、吹き出すように笑いがこぼれてしまう。
普段は淡々と物事を受け流す彼女の、自分しか見れない姿。
本当に、傍にいて飽きない。
「こっち向けよ」
「無理…処理に時間がかかってる…」
「強制終了しろ」
「無効なアクセスです…」
いつの間にか寒さも忘れて、今度は自分が彼女の頬に触れる。
ゆっくりとそのまま顔を上げさせれば、予想通りの表情がそこにあった。
「浮かれてんのは…俺だけじゃなかったみてーだな」
「……」
彼女の無言は肯定の返事だ。
わかりきった態度に口元は益々緩んで、彼女の頰から伝わる熱が自身の手へとじんわり伝わっていく。
これ以上の抵抗は無意味だと判断したのだろう。
彼女も観念し、自分の手に自らの手を重ねてようやく綺麗に笑った。
少し潤んだ大きな瞳は銀色を纏い、新雪のように輝きながら此方を見つめていて、またどうしようもなく胸が高鳴る。
「……好きな人と過ごせるっていうのに…
…浮かれないなんてことあるの？」
「……言うじゃねーか」
どうやら今日は欲を抑える必要はないらしい。
街から溢れる光の粒と胸の内に込み上げる幸福に心を満たされて、彼女の首裏へと手を回す。
どこかから聞こえてくる鐘の音に耳を傾けながら、愛しい銀色へ、今度は優しいキスをした。
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(特別な場所、特別な時間)
(誰も彼もが浮かれる日)
2022.12.25 Merry Christmas！
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作者名：七草 | 作成日時：2022年10月31日 21時
