ありのままの自分で_上 ページ6
※時間軸不明
兄や幼馴染のように強かったなら、どんなに良いだろうか。
時々そんなことを考えて、いつも答えが出ないまま終わる。
警察官として誇りを持って前へ進むと決めたはずなのに、社会の裏側は想像以上に重い世界だった。
過激な思想を抱く人間がいるのは当たり前で、人の恨み、妬みはそこらじゅうにころがっている。
中には同情してしまうような者もいて。
いくら犯罪者と言えど、そんな彼らに拳銃を向ける回数だって少なくはない。
躊躇だって何度かしている。
(…やっぱりオレが…弱いからなのかな…)
こういうのは考えるだけ無駄で、今更引き返せるものでもないとわかっているのに、どうしても捨てられない。
「大丈夫だよ」や「頑張ってるね」と言われたいわけではない。
上から認められたいわけでも、言ってしまえば出世したいわけでもない。
けれど靄がかかった何かが心を襲って仕方がない。
(……子どもだな…)
いつもこうだ。
そこにたどり着いて、ため息をつく。
認めたくないだけで、情けない不安の種の正体はもうわかっている。
本当に怖いのは、優秀だと慕われる兄や幼馴染に置いていかれることなのだと。
彼らの姿を思い出して、拳を握った。
(…いや…もう……)
こうした思いを抱いてしまう時点で手遅れなのかもしれない。
手を伸ばしても、彼らには届かない。
息苦しく、寒い。
目の前が真っ暗だ。
どうしたら変われるだろう。
どうしたら。
「景」
「！」
黒から一気に視界が開け、耳に響く声が現実へと引き戻す。
肩を震わせて顔を上げれば、Aがこちらを覗き込んでいた。
警視庁の一室。
黄昏のオレンジが眩しい。
「…あ……」
現状を理解し、サッと血の気が引いてしまう。
ある事件の情報を受け取りに彼女に会いに訪れて、テーブルを挟んで話をしていたはずだった。
そんな中で自分は、いつものアレをやってしまったのか。
「ごめんA…ボーッとしてて…」
「……」
すぐに謝罪を口にしたが、目の前の彼女は怪訝な顔のまま。
それはそうだ。
細かく、わかりやすく説明してくれていたのに、心ここに在らずな態度をとってしまった。
灰色の瞳に耐えきれず、思わず俯いてしまう。
やはりこんなにも、自分は弱い。
「……！」
再び視界が暗くなっていく途中で、両耳に温かいものが触れた。
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作者名：七草 | 作成日時：2022年10月31日 21時
