【鈍色編後日談】幸せの着信履歴 ページ33
.
「……！」
2年間眠っていたスマートフォンというと、充電コードに繋げても復活するかどうか。
近いうちに買い替えを考えねばと思いつつも、あの頃の懐かしさが詰まった端末を眠らせておくわけにもいかず。
安心感に浸った自室の奥、一か八かで電気を流して数時間後。
望み通りディスプレイに光が宿った。
「……わっ…」
姿を消して何日で残量が底をついたのかは不明だが、画面が復活し電波マークが立つや否や次々と表示されてくる通知の嵐。
メールに電話にスケジュール、鳴り続ける通知音に思わず消音モードを入れる。
画面上部に次々と表示される通知に圧倒されてしばらく、通知件数にとんでもない数を示してその動きが止まった。
「………何コレ」
応えることができなかったせいで並べられた、赤文字の通知の数々。
こんなに小さいスクロールバーを見るのは久しぶりだ。
所々に混ざっている知らない番号は降谷だろうか。
赤い日付は姿を消した数日後から始まっている。
伊達に萩原に諸伏。他の同期やナタリーまで。
中でも松田からの通知が桁違いに多かった。
「…3分おきって……ふふっ…」
短気な彼らしいと笑う一方で、目元は熱くなっていく。
散々涙は流したはずだったのに、唇は震え、鼻はツンと痛みが生じた。
振り回して、迷惑をかけて、愛想尽かしてくれたって文句は言えない。
そんな自分をこんなにも、気にかけてくれていたとは。
目に溜まる熱と、いつの間にか笑っていた口元。
この2年間、自分はけして独りではなかったのだと今更気づいて思い知って。
どうしようもない罪悪感が、この上ない幸福だった。
「……っほんと……参った…」
涙声で呟きながら、目に腕を乗せて天を仰ぐ。
感謝と自責。
湧き上がる感情が胸を締め付けて、熱い目元をそのままに端末へと視線を戻した。
今日話したばかりだが、無事帰宅した連絡くらいしても良いだろう。
なんて、ただの建前だけれども。
最新の履歴ををタップし、充電されたままの端末を耳へと当てる。
3コール目で途切れた無機質な音に、益々緩んだ口元がくすぐったい。
「………お待たせしました」
スマートフォンの向こう側。
世界で一番、愛しい人の声が聞こえた。
.
(ようやく途切れた赤文字の着信履歴)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 621人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：七草 | 作成日時：2022年10月31日 21時
