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疲れた時には2 ページ32

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頑なに動かない彼女には疑問が残るが、飴は知り合いにでも適当に渡せばいい。

息をついて、Aの手から飴の入った袋を取る。
滑らかで細い手から、ゴツゴツした大きい手に渡された飴袋。

その様子を満足そうに見つめ、「お疲れ様です」と会釈しながらAは部屋の入り口付近にあるゴミ箱へと向かって行った。


(…なんだったんだ…?)


軽く彼女を見送り、風見はまじまじと手の上の飴を見つめる。

どうせなら甘いものが好きな同僚とかでも良かったのではないだろうか。
軽く探せば1人や2人いるだろう。

わざわざ自分である必要はないはずだと首を傾げた時だった。


「……!!」


赤、緑、黄色と様々な色の包み紙が見える袋の中で、ひとつだけ不自然に大きい青い飴が目に止まる。


「…っまさか…!」


その形と正体に気づき、勢いよくその場を振り返ったが、休憩室に彼女の姿は既になかった。

















それから3日後の夜。


《やってくれたな》
「…真面目な部下ですこと」


スマホから届く降谷の声に、Aは独り言のように呟いた。

添付したテキストファイルに「上司には余計なことは言わなくていい」と記載したはずなのだが。

彼の手足として、報告は漏らさずしているのだろう。
どういう経緯で手に入れた情報を、どのようにして扱い、どのような結果を得たのか、包み隠さず。

全く部下の鑑である。


《長期戦かと思っていたんだが…こんなに早く見つかるとはな》
「密売組織の拠点を突き止めたのはあの人の努力だから、ちゃんと褒めてあげてね」
《考えておくよ。
…それより復帰後で忙しかったんじゃないのか?》
「借りっぱなしは好きじゃないから」


彼には11月7日の件で世話になった。
特に刑事部への説得と民間の情報操作は骨が折れたであろう。

職務と言えど、彼ら公安のあの日の努力のおかげで、今こうして自分は元の居場所に戻ることができている。

それは紛れもない真実であり、日々の苦労をよく知っている者として感謝を示さずにはいられない。



「ただのエゴだよ」



甘いものよりもきっと役に立つだろうと、青紙に包んだUSB。
その中の情報が彼の助けになったのなら何よりだ。

小さく笑ったAは手に取っていた紫の包み紙を開き、宝石のような飴を口へと放り込んだ。







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(疲れた時には、その疲れを早く取り除くための情報を)

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作者名:七草 | 作成日時:2022年10月31日 21時

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